高橋朋宏

【不動産トレンド】「遺言執行者」とは?

 

 「最近亡くなった独身の叔母が遺言書を残していたことが分かりました。遺言書では遺産の分配についてだけでなく、私を『遺言執行者に指定する』とも書かれていました。私は何をしなければならないのでしょうか?」などという相談が司法書士事務所に持ち込まれることがあります。今回は「遺言執行者」について解説します。

 遺言書の効力が生じるのは遺言者が亡くなったときです。当然のことながら、遺言者自身は相続発生後に遺言書の内容の実現を図ることはできません。そこで、遺言者は遺言書の内容に従った相続を実現するために、必要な手続を行う「遺言執行者」を遺言書で指定することができます。民法上、遺言執行者は「遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」、「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない」とされています。遺言執行者は非常に強い権限を持っているのです。

 遺産相続の手続は、預貯金の解約も、又は不動産登記手続も、たくさんの戸籍だけでなく、相続人全員の実印と印鑑証明書の提出を求められることが多く、これに非常に手間がかかります。この点、遺言執行者がいると、遺言執行者の実印と印鑑証明書があれば、ほぼ全ての手続を進めることができます。遺言書の内容に不満がある相続人や手続に協力的でない相続人がいるような場合でも、遺言執行者が単独で相続手続を進めることができるので、全体の事務負担を軽くし、より円滑に相続手続を進めることが可能になるのです。

 ただし、遺言執行者は①遺言執行者に選任された旨を相続人全員に通知し、②財産目録を作成して全ての相続人に開示し、③相続財産を注意して管理し、④相続人へ進捗や完了を報告する、等々の重要な義務を負っています。経験がない家族や親族が遺言執行者に指定された場合、日常の仕事や家事の片手間でこれらを行うのは決して簡単なことではありません。 遺言執行者を弁護士や司法書士等の第三者に依頼すると、相続人の諸々の負担を大きく減らすことが可能です。手続の透明性が確保されて、相続人間の無用なトラブルを防ぐことにつながる場合もあります。遺言者が遺言書で直接弁護士や司法書士を指定しなかった場合であっても、相続発生後、遺言執行者に指定された家族や親族が、遺言執行の任務を第三者に行わせる方法や家庭裁判所にあらためて遺言執行者選任の申立をする方法もあります。遺言書や遺言執行者について何かお悩みの方は弁護士や司法書士への相談をお勧めします。

予備的遺言とは?

 

当事務所の相談事例をご紹介します(実際のご相談とは一部内容を変更しています)。

「妻子がいない私(A)は、自分の死後、自宅の土地建物を妹(B)ではなく弟(C)に全て相続させたいと考えて、そのような遺言書を作成してあります。
ところが最近弟(D)が重い病気にかかり入院してしまいました。
もしも弟が私よりも先に亡くなってしまった場合、私の自宅は、私の遺言書の内容をふまえて、全て弟の子(D)に代襲相続されるのでしょうか」

遺言で指定した財産の相続人が、遺言者よりも先に亡くなってしまった場合、遺言書の該当部分の解釈をどのようにするかという問題があります。
結論から言うと、このケースで弟のCさんがAさんよりも先に亡くなった場合、Aさんの死後、この遺言書だけでは、弟の子のDさんがAさんの自宅を相続することはできません。

 根拠は以下の最高裁判例です。
最高裁平成23年2月22日判決「『相続させる』旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、
当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」

 冒頭のケースでAさんよりも先にCさんが亡くなってしまった場合、Aさんの遺言書の該当部分は「特段の事情がない限り」効力が生じないものとなってしまいます。
そうすると、Aさんの死後、自宅については法定相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。当然にDさんがAさんの自宅を全て相続することはできないのです。

 自分よりも先にCさんが亡くなってしまった場合はDさんに自宅不動産を相続させたいとさんが考えているのであれば、その希望を例えば以下のように遺言書に明示しておく必要があります。
「第1条遺言者は、遺言者が所有する下記不動産をC(昭和××年×月×日生まれ)に相続させる。第2条遺言者より前に又は遺言者と同時にCが死亡した場合、遺言者は前条記載の不動産をCの子であるD(平成△△年△月△日生まれ)に相続させる。」
このような遺言を「予備的遺言」又は「補充遺言」などと呼びます。
一度完成した遺言書でも、後日書き直すことは可能です。
冒頭のAさんの状況であれば今からでも遺言書を書き直すべきでしょう。
遺言書の作成や書き直しにあたっては、弁護士や司法書士に相談して慎重に文言を検討することをお勧めします。

相続土地国庫帰属制度

令和5年4月27日、「相続土地国庫帰属制度」がスタートすることをご存じでしょうか?
法務省のでは「相続した土地を国が引き取る制度がスタートします!」と大きくアピールされています。

 不動産は高い金額で取引されるものばかりではありません。
需要が少ないため売却が難しく、固定資産税や管理費ばかりが所有者の負担となり、「負動産」などと揶揄される物件がたくさんあります。
法務省の調査によれば、土地を所有する世帯のうち土地を国庫に帰属させる制度の利用を希望する世帯の割合は約20%とされています。
相続土地国庫帰属の手続は、「相続又は遺贈により土地を取得した者からの承認申請」→「法務大臣による要件審査・承認」→「申請者が年分の土地管理費相当額の負担金を納付」→「国庫帰属」、という流れで進みます。

「売買や贈与で取得した方」

続きを読む

子供がいない夫婦の相続

 DoubleIncome(共働き)NoKids(子供を持たない)」の頭文字を並べた
DINKs(ディンクス)という言葉をご存じでしょうか。

最近増加傾向にある、共働きで意識的に子供を持たない夫婦やその生活感のことをいいます。

 ところで、このような子供がいない夫婦で例えば夫が先に亡くなった場合、
無条件で遺産は全て妻に相続されるとお考えではないでしょうか?

 今回のコラムでは「子供がいない夫婦の相続」を解説します。

続きを読む

代襲相続とは?

当事務所の相談事例をご紹介します
(実際のご相談とは一部内容を変更しています)。
1年前に祖父が亡くなりました。
祖父の長男である私の父は1年前に亡くなっていたので、
私と父の弟が祖父の法定相続人となり、
二人で祖父の不動産について遺産分割協議をしました。

続きを読む