法律・税金・相続

知っておきたい 税務の知識 住宅ローン控除の申告におけるポイント

◎住宅ローン控除とは

住宅ローンを組んで自宅を購入した場合、購入者はローンの金利の支払いが発生します。この金利負担の軽減を目的として設けられているのが住宅ローン控除です。住宅ローン控除の適用を受ける場合、年末時点でのローン残高に一定の率を乗じて計算した額を、一定期間の間、支払うべき所得税(所得税から引ききれない場合には住民税)から控除することができます。近年の税制改正により、控除できる限度額、控除できる割合、控除できる期間などが変更されて複雑になっていますので、最新の内容を把握しておきましょう。

◎住宅ローン控除の主な適用要件

・自分の居住用の物件を購入(建築)していること
・取得してから6か月以内に居住していること
・住宅ローン控除を受ける年の12月31日まで引き続き居住していること
・住宅ローン控除を受ける年の合計所得金額が2,000万円以下であること
 ※一定の場合には合計所得金額が1,000万円以下であること
・ローンの返済期間が10年以上であること
・居住年及び、前2年、後3年の間に居住用財産の譲渡の特例などを使用していないこと

◎現在の住宅ローン控除

前記の通り、住宅ローン控除は年末時点でのローン残高を基に控除額を計算しますが、際限なくいくらでも控除できるわけではありません。
どのような住宅を取得するかにより、控除できる限度額が決められています。
現状の住宅ローン控除の借入限度額、控除期間等は下記の表の通りです。

◎適用のための提出書類

住宅ローン控除の適用のためには、住宅を取得した際の売買契約書や物件の登記簿謄本などの他、取得する住宅等の区分に応じた下記のような書類の提出が必要となります。

◎注意点

必要になる書類は、専門用語が多く、素人にはわかりにくいものが多いです。また、住宅メーカーや工務店等でも、税金の手続きのために必要な書類について正確な知識がある人ばかりではないため、誤って違う書類が交付されて、トラブルに繋がるケースがあります。
・「住宅省エネルギー性能証明書」が欲しかったのに、「住宅性能証明書」しかもらっていなかった
・「建設住宅性能評価書」が欲しかったのに、「設計住宅性能評価書」が交付されたなど申告期限直前に誤りに気付いても、正しい書類の取り寄せに数週間かかることもあり、適正な申告期限に間に合わない、という事態も考えられますのでご注意ください。

<トラブル事例>

・正しい書類が申告期限までに揃わなかったため、住宅ローン控除を適用しないで確定申告をし、後日、書類が揃った時点で「更正の請求」により税金の還付を申請したが、認められなかった。
※住宅ローン控除には「当初申告要件」があり、適用しないで申告書を提出してしまった場合には、後で遡って修正することができません。
・正しい書類が申告期限までに揃わなかったため、期限後に書類が揃ってから申告を行ったが、無申告加算税が課せられ、さらには青色申告特別控除が減額となってしまった。
※個人事業主が一定の要件を満たすと適用できる65万円の青色申告特別控除は、期限内に申告をすることが要件となっているため、期限後申告となると、10万円の控除しか適用できなくなってしまいます。
余裕をもって、正しい書類をあらかじめ揃えておくことが望ましいですが、万が一正しい書類の準備が間に合わない場合には、書類の不備がある状態でも確定申告をきちんと行い、不足していた書類を後で補完する、という方法が考えられます。誤った対応によりデメリットを被ることが無いよう、注意しましょう。

「特別受益」と「寄与分」

今回は令和5年4月から既に施行された民法改正から、「特別受益と寄与分を主張できる期間の制限」について解説します。
例えば親から生前に不動産購入のための多額の資金援助を受けていた長男と、何も貰っていない次男が、相続開始時の親の財産だけで2分の1ずつの遺産分割を行うと、当然不公平が生まれます。
このように故人からの生前贈与や遺贈、死因贈与により、一部の相続人だけが受け取った利益を「特別受益」といいます。
「特別受益」を相続財産に加算してから遺産分割を行うことで、遺産をより公平に分けることができます。
逆に、親の療養介護を献身的に続けていた長女と、何も貢献をしていなかった長男が、同様に2分の1ずつの遺産分割を行うと、これも当然不公平が生まれます。
故人の療養介護を献身的に続けた、又は故人のために資金援助をしたなどで、
故人の財産の維持又は増加に特別の貢献をした相続人は、相続財産に「寄与分」として財産を加算することができます。
民法は「特別受益」や「寄与分」という考え方を用いることで、遺産分割の際の当事者の不公平感を是正して、より実質的な公平を図ろうとしているということができます。

しかし、令和5年4月に施行された民法改正により、「特別受益」や「寄与分」を相続人が主張できる期間は相続開始時から10年と限定されることになりました(民法第904条の3)。
10年経過前に家庭裁判所に遺産分割の請求をした時や、相続人全員の同意がある時等の例外を除き、相続開始時から10年を経過すると他の相続人に「特別受益」があったことや、自分に「寄与分」があったことを主張することはできなくなります。
遺産分割は相続人全員の同意が得られないとそのまま放置されがちで、長期間に及ぶことが珍しくありません。10年、20年と長引くと、例えば特別受益や寄与分の証拠は散逸し、関係する相続人がさらに亡くなって相続人の人数も増え、遺産の管理がさらに複雑になる等々の問題が発生します。
相続開始から長期間経過しているのに相続登記がされていない不動産や相続手続が完了していない預貯金等には、このような背景がある場合が珍しくありません。
遺産分割の早期解決を促して遺産分割の長期化を防ぐことや、すでに長期化してしまった遺産分割を解決に向けて円滑に進めることが民法改正の目的です。
遺産分割は先延ばしすることなく、なるべく早く進めなければなりません。
お亡くなりになった家族の相続手続が長期間解決できていない当事者の方は、専門家へのご相談をお勧めします。

知っておきたい!税務の知識相続税申告の必要性について

相続税申告の必要性について相続税には基礎控除があるため、全ての方に相続税がかかるわけではありません。
相続税計算上の財産評価額と、通常の取引価格に差が生じる財産もあるため、相続税計算上どのように評価されるのかを把握しておきましょう。
また、各種特例の適用要件を理解しておくことも重要です。

相続税の基礎控除相続税には、「3,000万円+600万円×法定相続人の数」の基礎控除が設けられています。

(例)相続人が2人であれば、3,000万円+600万円×2人=4,200万円相続人が5人であれば、3,000万円+600万円×5人=6,000万円亡くなられた方の財産の合計がこの基礎控除以下であれば相続税はかかりませんし、相続税の申告の必要もありません。相続税の財産評価相続税は、亡くなられた方の、亡くなられた時点の財産の合計額を基に課税されます。不動産や株式など、少し計算が難しい財産もありますので、下記でご紹介します。

1.土地不動産は一物四価などと呼ばれる財産です(実勢価格、公示価格、相続税評価額、固定資産税評価額がそれぞれ異なる。)が、相続税で使用する土地の評価は、「相続税路線価」を基に評価した価額です。
路線価方式は、各道路に値段が付けられていて、その道路の価格を基に隣接する土地の評価を計算する方法です。国税庁のHPなどで「路線価図」を調べることができますが、路線価図を見ると、道路に「300C」などと数字と記号が付されています。この300、というのは「300千円」=「30万円」、という意味で、m²当たりの単価を示しています。
そのため、この道路に接している100m²の土地がある場合、30万円×100m²=3,000万円の評価額、ということになります。
(※「300C」の「C」は借地権割合を示していますが、本稿では詳細な説明は割愛させていただきます。)
なお、同じ100m²の土地でも、10m×10mの綺麗な正方形と、4m×25mの長細い土地では使い勝手が大きく異なります。
また、歪んだ形や、三角形の土地などであればより利用効率は悪くなります。
実際に評価をする際には、図面を基に、土地が道路に接している間口の距離や、奥行の距離、土地の地形などを考慮して各種補正を入れた上で評価を行います。

2.建物建物は、固定資産税と同額で評価をします。
毎年市役所等から送られて来る固定資産税の課税明細書に記載されている評価額が、相続税評価、ということになります。
(課税明細書には、「課税標準額」や「固定資産税額」も記載されていますが、「価格(評価額)」を使用しますのでご注意ください。)

3.上場株式については、ご相続発生時点の株価を基に計算します。
この際に、ご相続発生日の終値、その月の平均額、前月の平均額、前々月の平均額、の4つの中で一番低いものを使用して良いこととされています。
(例)〇〇商事の株式の株価(9/10に相続開始)
9/10の価格:320円
9月の平均:315円
8月の平均:330円
7月の平均:310円
∴310円で評価

4.非上場株式ご自身で会社を経営されているような場合には、その会社の株式も財産に含まれます。非上場会社の株式は、上場株式のような取引相場がないため、会社の決算書等を基に株価を個別に算定する必要があります。
評価方法は「類似業種比準価額方式」(自社と同業種の上場会社の株価と比較して自社の株価を算定する方法)と、「純資産価額方式」(会社の所有する資産から負債を差し引いた純資産を基に算定する方法)を組み合わせて行います。評価の方法は複雑ですが、単純に言うと、利益が出ている会社は株価が高いですし、価値の高い財産(含み益のある土地など)を所有している会社、業歴が長く過去の利益の蓄積が多い会社などは株価が高くなります。

相続税の特例
1.小規模宅地の特例お亡くなりになった方のご自宅の敷地を、同居していた親族が相続した場合など、一定の要件を満たすと、その敷地の評価が最大80%減になるという特例です。
1億円の評価額の土地→この特例の適用により2,000万円の評価になる注意点としては、この特例は相続税の申告をしないと適用ができないため、特例を適用すると財産評価額が基礎控除額以下となり税金がかからない、という場合にも申告はする必要があります。
2.配偶者の税額軽減配偶者は、法定相続分相当額または1億6,000万円までは相続しても税金がかからない特例があります。
そのため、配偶者が全て相続すると相続税はゼロ、というケースもありますが、この特例も、適用するためには申告が必要となりますので注意が必要です。
まとめ相続税の節税がしたい、と相談に来られた方で、よくよく話を聞くとわずかな相続税しか発生しなかったり、逆にうちはそんなに財産がないから、という方の相続税の試算をしてみたら多額の納税額が算定された、ということは良くあります。
相続税の申告は不要だ、と思い込んでいて、実は申告が必要だった場合には、税務署からの指摘を受け、追加で加算税や延滞税なども課税されてしまう可能性があります。
万が一の際にどれだけ相続税がかかるか把握していない場合には、一度専門の税理士に相談してみることをお勧めいたします。

知っておきたい税務の知識【不動産購入による相続税対策について】


令和4年4月19日、最高裁で下された相続税関係の判決に注目が集まっています。本コラムでは問題となった事案について、簡単にご紹介したいと思います。

<事案の概要>
 ご高齢の男性が相続対策を目的として、借入をして不動産を購入→その後、男性のご相続が発生→「財産評価基本通達」に則り評価をした結果、相続税はゼロ円に→税務当局が、財産評価基本通達ではなく不動産鑑定評価で計算すべき、として更正
→最高裁の判決で税務当局の主張する評価が妥当と判断

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中途解約の場合の残存期間の賃料の支払

中途解約の場合の残存期間の賃料の支払

(質問)

弊社は、都心に新築したビルのワンフロアを、A社にオフィス用途にて期間5年として賃貸し、特約に、賃借人A社が期間満了の前に中途解約するときは、違約金として期間満了までの残存期間の賃料を一括して支払う旨を定めていました。ところが、契約から1年後に、A社は、コロナ禍でのテレワークで賃借フロアが過大になったとして中途解約を申入れてきました。
弊社は、特約通りに残存期間の賃料の一括払いを請求できますか。

(回答)

前回は、中途解約の場合特約通りに残存期間の賃料の一括払いを請求できるかについて、東京地裁平成8年8月22日判決を挙げ、こうした場合の違約金の相場は、残存期間の賃料全額ではなく1年分程度であろうとする見方もあることを紹介しました。
しかし、賃借人がある程度規模のある会社で諸々の取引にも精通し、あるいは対象物件の賃借のニーズから、違約金条項など十分理解した上で契約したような場合、残存期間の賃料全額を違約金とする特約を有効と認める判例もあるので、貴社のケースでも参考にすべきです。

そうした判例のひとつ東京地裁平成20年1月31日判決は、賃借人がコンビニ営業する会社で、期間は10年間、中途解約の場合は残存期間の賃料を一括して支払うとの特約のもと、賃借人が契約から3年未満で中途解約したケースです。
判決は、本特約は、賃借人が、対象建物でのコンビニ営業の機会を競争他社との競争で勝ち取りたいがために、あえて自己に不利で賃貸人に有利な条件提示をした結果、賃借人が期間10年分の賃料収入を賃貸人に確保させるべく特約を結んだと認定しました。
そこで、特約は中途解約の場合の残存期間の賃料全額相当の賃貸人の損害を填補するものとして有効であり、残存期間の賃料請求はできる旨判示しています。 

 もう一つ、東京地裁平成22年6月24日判決は、賃貸人は大手不動産会社の組成したファンド会社、賃借人はブリヂストンの子会社で、期間3年、賃借人は中途解約ができないが、期間満了までの残存期間の賃料を一括して支払う場合は中途解約できるとの特約のもと、タイヤ保管用の倉庫を借りたが、3か月後に中途解約の申入れをしたケースでした。
判決は、賃借人は、残存期間の賃料支払義務を免れないことを認識して契約締結していると認定し、更に、賃貸人が新たな賃借人と賃貸借契約を締結して旧賃借人からの賃料の他に賃料をダブルでとる場合もあることを当然に予想していたとまで認定して、賃貸人が解約後に第三者に賃貸して賃料を取っていても、賃借人に対する残存期間の賃料請求は許される、と判示しました。