知っておきたい税務の知識【不動産購入による相続税対策について】


令和4年4月19日、最高裁で下された相続税関係の判決に注目が集まっています。本コラムでは問題となった事案について、簡単にご紹介したいと思います。

<事案の概要>
 ご高齢の男性が相続対策を目的として、借入をして不動産を購入→その後、男性のご相続が発生→「財産評価基本通達」に則り評価をした結果、相続税はゼロ円に→税務当局が、財産評価基本通達ではなく不動産鑑定評価で計算すべき、として更正
→最高裁の判決で税務当局の主張する評価が妥当と判断

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中途解約の場合の残存期間の賃料の支払

中途解約の場合の残存期間の賃料の支払

(質問)

弊社は、都心に新築したビルのワンフロアを、A社にオフィス用途にて期間5年として賃貸し、特約に、賃借人A社が期間満了の前に中途解約するときは、違約金として期間満了までの残存期間の賃料を一括して支払う旨を定めていました。ところが、契約から1年後に、A社は、コロナ禍でのテレワークで賃借フロアが過大になったとして中途解約を申入れてきました。
弊社は、特約通りに残存期間の賃料の一括払いを請求できますか。

(回答)

前回は、中途解約の場合特約通りに残存期間の賃料の一括払いを請求できるかについて、東京地裁平成8年8月22日判決を挙げ、こうした場合の違約金の相場は、残存期間の賃料全額ではなく1年分程度であろうとする見方もあることを紹介しました。
しかし、賃借人がある程度規模のある会社で諸々の取引にも精通し、あるいは対象物件の賃借のニーズから、違約金条項など十分理解した上で契約したような場合、残存期間の賃料全額を違約金とする特約を有効と認める判例もあるので、貴社のケースでも参考にすべきです。

そうした判例のひとつ東京地裁平成20年1月31日判決は、賃借人がコンビニ営業する会社で、期間は10年間、中途解約の場合は残存期間の賃料を一括して支払うとの特約のもと、賃借人が契約から3年未満で中途解約したケースです。
判決は、本特約は、賃借人が、対象建物でのコンビニ営業の機会を競争他社との競争で勝ち取りたいがために、あえて自己に不利で賃貸人に有利な条件提示をした結果、賃借人が期間10年分の賃料収入を賃貸人に確保させるべく特約を結んだと認定しました。
そこで、特約は中途解約の場合の残存期間の賃料全額相当の賃貸人の損害を填補するものとして有効であり、残存期間の賃料請求はできる旨判示しています。 

 もう一つ、東京地裁平成22年6月24日判決は、賃貸人は大手不動産会社の組成したファンド会社、賃借人はブリヂストンの子会社で、期間3年、賃借人は中途解約ができないが、期間満了までの残存期間の賃料を一括して支払う場合は中途解約できるとの特約のもと、タイヤ保管用の倉庫を借りたが、3か月後に中途解約の申入れをしたケースでした。
判決は、賃借人は、残存期間の賃料支払義務を免れないことを認識して契約締結していると認定し、更に、賃貸人が新たな賃借人と賃貸借契約を締結して旧賃借人からの賃料の他に賃料をダブルでとる場合もあることを当然に予想していたとまで認定して、賃貸人が解約後に第三者に賃貸して賃料を取っていても、賃借人に対する残存期間の賃料請求は許される、と判示しました。

コロナ禍を乗り越えた賃貸住宅で差別化を

皆様こんにちは。住宅・不動産・土地活用・不動産投資のコンサルをおこなっていますコミュニケーションバンクの山本です。今回のテーマは「コロナ禍を乗り越えた賃貸住宅で差別化を」です。

 弊社発行「いえ活手帖10」に掲載しているデータをご覧いただきますと、
〝コロナ禍をきっかけに半数近くが住意識に変化〞とあります。

「コロナ禍で住宅で不便に感じること」は、オンオフの切り替えがしづらい。
運動できるスペースがない。部屋が狭い。近隣の音が気になる。
仕事用の部屋やデスクや椅子がない。ネット環境が悪い。と、納得の結果を確認できます。

 ここに、新しいニーズに対応する賃貸住宅のヒントがあります。仕事や趣味のスペーズがありで音の問題が解決ができれば、勝ち残れるチャンスが増えるということです。

「住まいに求める条件も変化へ」のデータをご覧いただきますと、先ほどの不便に感じることを解決したいということが見えてきます。
部屋数・広いリビング・日当たりの良い住宅・遮音性・省エネ性・収納量・換気性能・宅配ボックス・仕事用のスペース・庭・インターネット環境等が、キーワードになりそうです。

 私もZOOM会議や、WEBセミナー・相談会の機会がかなり増え、スペースや遮音性、ネット環境や省エネへのニーズが大きくなっています。
皆様のアパート・マンションは、新しいニーズに対応できていますでしょうかこれから新築アパート・マンションを建築する地主さんや、買い増しや組み換えを検討している不動産投資家の皆様は、このようなニーズに応えるアパート・マンションを建てたり購入することで、コロナ禍前に、建築したアパート・マンションと圧倒的な差別化を図れます。

 先日ご相談のあった地主さんは、同じエリアに複数棟のアパートとマンションを持っていて、全て別のハウスメーカーで建てているとのことです。自分が持っているアパート同士が競合しないように考えていらっしゃいました。
今回は、老朽化したアパートの建て替えを検討していらっしゃるとのことで、ご自宅にお伺いしましたところ、圧倒的な差別化の提案をご希望されていました。
廊下スペースをできるだけ無くして、部屋数・収納スペースを強化したいとおっしゃっていました。流石です。地主さんはよく勉強していらっしゃる方が多いです。

 オーナーさんのお好み、場所や敷地の大きさ、周辺の賃貸需給等にぴったりのハウスメーカーや建築会社をご紹介しますので、是非お問い合わせ下さい。

予備的遺言とは?

 

当事務所の相談事例をご紹介します(実際のご相談とは一部内容を変更しています)。

「妻子がいない私(A)は、自分の死後、自宅の土地建物を妹(B)ではなく弟(C)に全て相続させたいと考えて、そのような遺言書を作成してあります。
ところが最近弟(D)が重い病気にかかり入院してしまいました。
もしも弟が私よりも先に亡くなってしまった場合、私の自宅は、私の遺言書の内容をふまえて、全て弟の子(D)に代襲相続されるのでしょうか」

遺言で指定した財産の相続人が、遺言者よりも先に亡くなってしまった場合、遺言書の該当部分の解釈をどのようにするかという問題があります。
結論から言うと、このケースで弟のCさんがAさんよりも先に亡くなった場合、Aさんの死後、この遺言書だけでは、弟の子のDさんがAさんの自宅を相続することはできません。

 根拠は以下の最高裁判例です。
最高裁平成23年2月22日判決「『相続させる』旨の遺言は、当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には、
当該『相続させる』旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから、遺言者が、上記の場合には、当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」

 冒頭のケースでAさんよりも先にCさんが亡くなってしまった場合、Aさんの遺言書の該当部分は「特段の事情がない限り」効力が生じないものとなってしまいます。
そうすると、Aさんの死後、自宅については法定相続人全員で遺産分割協議をしなければなりません。当然にDさんがAさんの自宅を全て相続することはできないのです。

 自分よりも先にCさんが亡くなってしまった場合はDさんに自宅不動産を相続させたいとさんが考えているのであれば、その希望を例えば以下のように遺言書に明示しておく必要があります。
「第1条遺言者は、遺言者が所有する下記不動産をC(昭和××年×月×日生まれ)に相続させる。第2条遺言者より前に又は遺言者と同時にCが死亡した場合、遺言者は前条記載の不動産をCの子であるD(平成△△年△月△日生まれ)に相続させる。」
このような遺言を「予備的遺言」又は「補充遺言」などと呼びます。
一度完成した遺言書でも、後日書き直すことは可能です。
冒頭のAさんの状況であれば今からでも遺言書を書き直すべきでしょう。
遺言書の作成や書き直しにあたっては、弁護士や司法書士に相談して慎重に文言を検討することをお勧めします。

【知っておきたい 税務の知識】生前贈与による対策

 令和5年度の税制改正において、生前贈与に関する改正が行われました。改めて、贈与税の二つの制度、「暦年課税制度」「相続時精算課税制度」それぞれの特徴と、メリット・デメリット等につき解説したいと思います。

暦年課税制度の概要

・基礎控除:110万円
年間110万円までの贈与については、贈与税が課税されず、申告も不要です。

・税率:10~55%
課税対象額に応じ、最低10%から最高55%までの累進税率により課税されます。
(特例税率(父母・祖父母から18歳以上の子供・孫への贈与)と一般税率の二つの税率が設けられており、特例税率の方が若干、税負担が軽くなっています。)

・相続発生時の取扱い:相続発生前7年以内の贈与を加算(R6.1.1以降)
 相続発生時には、相続人に対する過去7年分の贈与額が相続財産に加算されて、相続税が計算されます。
※110万円以下で、申告していなかった贈与についても、この加算対象に含申告していなかった贈与についても、この加算対象に含まれます。
 なお、贈与時に支払っていた贈与税がある場合には、相続税から排除されます。

相続時精算課税制度の概要

・特別控除:2,500万円
基礎控除:110万円(R6.1.1以降)
 一生を通して2,500万円の特別控除の枠があり、この範囲内の贈与については贈与税が課されません。
 また、税制改正により令和6年以降は110万円の基礎控除の枠が新たに設けられました。
 2,500万円の特別控除を使用するためには申告が必要ですが、110万円以下の贈与であれば申告も不要です。

・税率:20%
特別控除2,500万円を超えた金額については、一律20%の税金が課税されます。

・相続発生時の取扱い:相続発生前の全ての贈与を加算。ただし、年間110万円までの贈与については加算対象外。(R6.1.1以降)
 相続発生時には、相続人に対する、過去の全ての贈与額が相続財産に加算されて、相続税が計算されます。ただし、令和6年以降は、110万円以下で、申告していなかった贈与については、この加算対象に含まれません。
 なお、贈与時に支払っていた贈与税がある場合には、相続税から排除されます。

暦年課税制度のメリット

・毎年110万円以下の贈与であれば、無税で財産を移転することができます。
・110万円を超えて贈与税が課税される場合も、相続税より安い場合にはメリットがあります。
・誰にでも贈与可能です。

暦年課税制度のデメリット

・税制改正により、相続人に対する贈与については過去7年分を持ち戻されることになりました。

暦年課税制度の活用

 生前贈与を使用した相続対策と言えば、110万円の非課税枠を活用し、長い時間をかけて大勢に分散させる、というのが王道です。
(例)子供が2人いて、それぞれに2人ずつ子供(自分から見ると孫)がいた場合
 子供2人、子供の配偶者2人、孫4人、全員含めると8人に対して、110万円ずつ贈与すると、年間880万円、無税で財産を移転できることとなります。
 これを10年繰り返せば8,800万円の移転ができ、大きな節税効果があると言えます。

 相続税と贈与税はともに「超過累進税率」が採用されており、金額が大きくなるほど段階的に税率が高くなる仕組みとなっています。そのため、財産を多額にお持ちの場合には、110万円に拘らず、もっと多額の贈与をして贈与税を払っても、相続税よりは少ない税負担で済む、というケースもあります。
(例)多額の財産をお持ちで、将来の相続税の課税割合が50%の場合仮に500万円を子供に対して贈与すると、485,000円の贈与税がかかります。
(特例税率)一方、もし贈与をしないで手許に現金を持ったまま亡くなると、この手元にある500万円に対し、50%の税率で、250万の相続税がかかることになります。
 この場合には、贈与税を払ってでも早めに多額の贈与により財産を移転した方が節税効果がある、と言えるでしょう。

相続時精算課税制度のメリット

・金額の大きい財産を移転する場合には、贈与時の負担が少なく済みます。
・値上がりが期待できる財産を贈与するとメリットがあります。
・収益物件を贈与するとメリットが出る可能性があります。
・税制改正により110万円の基礎控除が設けられ、使いやすくなりました。

相続時精算課税制度のデメリット

・一度選択すると撤回不能(暦年課税制度に戻ることができません)。
・直系尊属からの贈与しか適用できません。

相続時精算課税制度の活用

相続時精算課税制度は、2,500万円の特別控除があり、また、特別控除を超えた分に係る税率も一律20%となっているため、金額の大きな財産を移転する際には、暦年課税制度と比べ、税負担が少なく済みます。
(例)子供に3,000万円を贈与した場合
・暦年課税制度・・・贈与税10,355,000円(特例税率)
・相続時精算課税制度・・・贈与税780,000円

 相続税の計算上加算されるのは「贈与時の価額」であることから、値上がりする可能性がある財産を贈与するとメリットが出ます。
(例)2,000万円の株式を贈与した。20年後、相続が発生、その時点での株価は5,000万円。
この場合、相続税の計算は、贈与時の2,000万円を加算して計算することになります。
(値上がり益の3,000万円には相続税は課税されません。)

 収益物件の所得の帰属の変更を狙った贈与による対策もメリットが出る可能性があります。
(例)2,500万円の評価の賃貸物件(年間120万の家賃収入あり)を相続時精算課税制度を使用して子供に贈与し、仮に20年後相続が発生した場合。
 相続発生時には、物件の評価額自体は相続税の計算上持ち戻して計算する必要がありますが、この物件から得られた収益は贈与以降は所有者である子供のものとなります。もし贈与をしていなかったとしたら、親の手元に貯まっていたであろう、120万円×20年=2,400万円の家賃収入を子供に移転できたことになり、その分、親の財産の積み上がりを防止し、相続税の節税に繋がったと考えられます。

まとめ
 今回の税制改正で、相続時精算課税制度について110万円の基礎控除が創設され、また、この基礎控除以下の財産は将来の相続税に加算しなくて良い、とされたため、暦年課税制度よりも、相続税の計算上、有利となりました。
 今後は、相続時精算課税制度が使用できる、親・祖父母から18歳以上の子供・孫への贈与については積極的に相続時精算課税制度を使用しつつ、それ以外の方への贈与(子供の配偶者や18歳未満の孫など)へは暦年課税制度による贈与も併用するような形で対策を取るのが総合的に有利となることが想定されます。