【知っておきたい 税務の知識】生前贈与による対策

 令和5年度の税制改正において、生前贈与に関する改正が行われました。改めて、贈与税の二つの制度、「暦年課税制度」「相続時精算課税制度」それぞれの特徴と、メリット・デメリット等につき解説したいと思います。

暦年課税制度の概要

・基礎控除:110万円
年間110万円までの贈与については、贈与税が課税されず、申告も不要です。

・税率:10~55%
課税対象額に応じ、最低10%から最高55%までの累進税率により課税されます。
(特例税率(父母・祖父母から18歳以上の子供・孫への贈与)と一般税率の二つの税率が設けられており、特例税率の方が若干、税負担が軽くなっています。)

・相続発生時の取扱い:相続発生前7年以内の贈与を加算(R6.1.1以降)
 相続発生時には、相続人に対する過去7年分の贈与額が相続財産に加算されて、相続税が計算されます。
※110万円以下で、申告していなかった贈与についても、この加算対象に含申告していなかった贈与についても、この加算対象に含まれます。
 なお、贈与時に支払っていた贈与税がある場合には、相続税から排除されます。

相続時精算課税制度の概要

・特別控除:2,500万円
基礎控除:110万円(R6.1.1以降)
 一生を通して2,500万円の特別控除の枠があり、この範囲内の贈与については贈与税が課されません。
 また、税制改正により令和6年以降は110万円の基礎控除の枠が新たに設けられました。
 2,500万円の特別控除を使用するためには申告が必要ですが、110万円以下の贈与であれば申告も不要です。

・税率:20%
特別控除2,500万円を超えた金額については、一律20%の税金が課税されます。

・相続発生時の取扱い:相続発生前の全ての贈与を加算。ただし、年間110万円までの贈与については加算対象外。(R6.1.1以降)
 相続発生時には、相続人に対する、過去の全ての贈与額が相続財産に加算されて、相続税が計算されます。ただし、令和6年以降は、110万円以下で、申告していなかった贈与については、この加算対象に含まれません。
 なお、贈与時に支払っていた贈与税がある場合には、相続税から排除されます。

暦年課税制度のメリット

・毎年110万円以下の贈与であれば、無税で財産を移転することができます。
・110万円を超えて贈与税が課税される場合も、相続税より安い場合にはメリットがあります。
・誰にでも贈与可能です。

暦年課税制度のデメリット

・税制改正により、相続人に対する贈与については過去7年分を持ち戻されることになりました。

暦年課税制度の活用

 生前贈与を使用した相続対策と言えば、110万円の非課税枠を活用し、長い時間をかけて大勢に分散させる、というのが王道です。
(例)子供が2人いて、それぞれに2人ずつ子供(自分から見ると孫)がいた場合
 子供2人、子供の配偶者2人、孫4人、全員含めると8人に対して、110万円ずつ贈与すると、年間880万円、無税で財産を移転できることとなります。
 これを10年繰り返せば8,800万円の移転ができ、大きな節税効果があると言えます。

 相続税と贈与税はともに「超過累進税率」が採用されており、金額が大きくなるほど段階的に税率が高くなる仕組みとなっています。そのため、財産を多額にお持ちの場合には、110万円に拘らず、もっと多額の贈与をして贈与税を払っても、相続税よりは少ない税負担で済む、というケースもあります。
(例)多額の財産をお持ちで、将来の相続税の課税割合が50%の場合仮に500万円を子供に対して贈与すると、485,000円の贈与税がかかります。
(特例税率)一方、もし贈与をしないで手許に現金を持ったまま亡くなると、この手元にある500万円に対し、50%の税率で、250万の相続税がかかることになります。
 この場合には、贈与税を払ってでも早めに多額の贈与により財産を移転した方が節税効果がある、と言えるでしょう。

相続時精算課税制度のメリット

・金額の大きい財産を移転する場合には、贈与時の負担が少なく済みます。
・値上がりが期待できる財産を贈与するとメリットがあります。
・収益物件を贈与するとメリットが出る可能性があります。
・税制改正により110万円の基礎控除が設けられ、使いやすくなりました。

相続時精算課税制度のデメリット

・一度選択すると撤回不能(暦年課税制度に戻ることができません)。
・直系尊属からの贈与しか適用できません。

相続時精算課税制度の活用

相続時精算課税制度は、2,500万円の特別控除があり、また、特別控除を超えた分に係る税率も一律20%となっているため、金額の大きな財産を移転する際には、暦年課税制度と比べ、税負担が少なく済みます。
(例)子供に3,000万円を贈与した場合
・暦年課税制度・・・贈与税10,355,000円(特例税率)
・相続時精算課税制度・・・贈与税780,000円

 相続税の計算上加算されるのは「贈与時の価額」であることから、値上がりする可能性がある財産を贈与するとメリットが出ます。
(例)2,000万円の株式を贈与した。20年後、相続が発生、その時点での株価は5,000万円。
この場合、相続税の計算は、贈与時の2,000万円を加算して計算することになります。
(値上がり益の3,000万円には相続税は課税されません。)

 収益物件の所得の帰属の変更を狙った贈与による対策もメリットが出る可能性があります。
(例)2,500万円の評価の賃貸物件(年間120万の家賃収入あり)を相続時精算課税制度を使用して子供に贈与し、仮に20年後相続が発生した場合。
 相続発生時には、物件の評価額自体は相続税の計算上持ち戻して計算する必要がありますが、この物件から得られた収益は贈与以降は所有者である子供のものとなります。もし贈与をしていなかったとしたら、親の手元に貯まっていたであろう、120万円×20年=2,400万円の家賃収入を子供に移転できたことになり、その分、親の財産の積み上がりを防止し、相続税の節税に繋がったと考えられます。

まとめ
 今回の税制改正で、相続時精算課税制度について110万円の基礎控除が創設され、また、この基礎控除以下の財産は将来の相続税に加算しなくて良い、とされたため、暦年課税制度よりも、相続税の計算上、有利となりました。
 今後は、相続時精算課税制度が使用できる、親・祖父母から18歳以上の子供・孫への贈与については積極的に相続時精算課税制度を使用しつつ、それ以外の方への贈与(子供の配偶者や18歳未満の孫など)へは暦年課税制度による贈与も併用するような形で対策を取るのが総合的に有利となることが想定されます。

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