【Q&A】テナントが建設協力金との相殺特約を新賃貸人に主張し、認められる可能性は大

Q.弊社は、最近、X社からテナントAに賃貸中のビル1棟を購入しました。

売買契約上、弊社は、敷金は引き継ぐも建設協力金は引き継がない内容でした。しかし、テナントAに賃料請求したところ、前賃貸人X社との間で、テナントAは、建設協力金を毎月分割して償還を受け、毎月賃料と相殺する旨の賃貸借契約書の特約があったので、テナントAは、これに基づき弊社に相殺を主張し、賃料は相殺後の残額しか支払わないと主張しています。そうした主張は認められますか。

. 結論的には、テナントAの相殺の主張は認められる可能性が高いと思われます。

まず、敷金と建設協力金は、それぞれ、賃貸物件が賃貸人から第三者に売却された場合、敷金は賃貸借の担保なので第三者に引き継がれますが、建設協力金は、最高裁昭和51年3月4日判決によれば、特段の合意なく当然には引き継がれません。それが原則的な判例の考え方です。

貴社は相殺特約付き賃料債権を取得したこととなり、Aからの相殺の主張は認められる

そして、貴社とX社との貸しビルの売買契約で、敷金は承継するが建設協力金(償還義務)は承継しないと定められているのは、こうした判例による原則的な考え方通りと言えます。

そうすると、貴社は、テナントAに対して建設協力金の償還債務を負いませんので、テナントAは、貴社に対して建設協力金の分割償還義務と賃料との相殺を主張することはできないように考えられます。

しかし、テナントAは、賃借権を貸しビルの買受人である貴社に対抗できる結果、賃貸借契約はX社から貴社に承継されるわけですが、そこでは、賃貸借契約の賃料支払特約なども含めて承継されるのです。

そして、X社の締結していた賃貸借契約の特約は、テナントAが、建設協力金は毎月分割して償還を受け、その際毎月賃料と相殺するという相殺特約であるところ、そうした相殺特約は、賃料の金額や支払い方法に関して賃貸借契約と同時にされた合意として、賃貸借契約と一体となっていて、賃貸借契約の内容をなすものと考えられます。

従って、X社から賃貸人たる地位を承継した貴社に対しても効力を有し、貴社は、相殺特約により制約された賃料債権を取得したこととなり、Aからの相殺の主張は認められるでしょう。仙台高裁平成25年2月13日判決も同様の見解を述べています。

なお、貴社は、建設協力金の分割償還と賃料との毎月相殺するとの特約を承継することとなりますので、その意味では建設協力金を引き継いだと同様の結果となります。

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