「無料で相続税の試算をしますよ!」にご注意! ~「タダほど高いものはない」とはよく言ったもの~

「無料で相続税の試算をしますよ!」にご注意! ~「タダほど高いものはない」とはよく言ったもの~

皆さんの中には、金融機関やハウスメーカーなどから「無料で相続税の試算をしますよ!」という話が持ち込まれたことのある人もいらっしゃるのではないでしょうか。もしかしたら「タダならやってもらおうかな」と思って思わず依頼してしまった方もいるかもしれません。

今日は「タダほど高いものはない」とはよく言ったものだということがわかるエピソードを紹介していきましょう。

大手銀行に相続税の納税資金が3億円以上不足すると言われ不眠症に

昨年、私のところにA氏という人物が相談に訪れました。A氏は東京23区内に2桁の不動産を所有していました。A氏の家は先祖代々土地を引き継いできた「大地主」と呼ばれる家系です。
彼の実父は既に他界しており、一次相続を経て、家の土地の約半分はA氏が、残りの約半分はA氏の高齢の実母が所有していました。

ある時、某大手銀行が「相続税の試算をしますよ!無料ですからいかがですか!?」と言ってきました。A氏は「タダならやってもらおうかな」と思って依頼しところ、実母に相続が発生した場合、相続税の納税資金が3億円近く不足するという衝撃の結果が出ました。
悩んで夜も眠れなくなったというA氏は、たまたま書店で見つけたという私の著書を読んで相談に訪れたのです。

しかし私がA氏の話を聞いたところ、実母とA氏はそこそこの現預金を持っているし、A氏が土地を所有する地域の平均的な路線価水準から簡易に相続税を試算すると、3億円も納税資金が不足しているとはとても思えませんでした。
私はA氏に大手銀行の「相続税の試算」の資料を見せてもらったところ、確かに相続税の額は5億円を超えており、手元現預金は2億円程度であるから、相続税の納税資金が3億円以上不足していると書かれていました。

正しく相続税を試算したところ、相続税の納税資金不足はゼロ

悩みきっていた彼は結局、決して安くない報酬で私と相続コンサルティングの契約を締結しました。そして私は現況を把握するため、資料を詳細に分析し、現地を全て確認し、彼の実母に相続が発生した場合の相続税を精緻に試算ました。

すると・・・。

驚いたことに、私が試算した相続税の見込額は2億円にも満たず、大手銀行の試算と3億円以上も乖離していたのです。あまりにも乖離が大きかったので、何度も計算ミスがないか見直しましたが全くありません。そこで大手銀行の「相続税の試算」について注意深く検算したところ、前提条件などにおかしなところが山のようにあり、また計算ミスが大量にあることがわかりました。これらを正しく修正していけば、私の試算とほぼ一致します。

私はこのことをA氏に伝えたところ、激高して支店に怒鳴り込んだようです。そしたら大手銀行の担当者はそっけなく「無料の相続税試算なので、あくまでも参考資料です。計算に当たっては、多くの前提条件や仮定によっています。最終的な意思決定には、顧問税理士などに相談してください」と言い放ったそうです。

もちろんA氏がそんなことを言われたのは初めてです。所詮はタダなんだから、最初からその程度のものに決まっているじゃないかと思うかもしれません。しかし温厚なA氏がそこまで怒ったのは理由があるのです。

「無料の相続税試算」を根拠にアパート建築を提案

実はこの大手銀行は、A氏が頼んでもいないのに「某大手ハウスメーカー」を紹介してきて「相続税の節税対策」と称して、借入によるアパートの建築を強く勧めてきていたのです。もちろん「サブリースがあるから安心だ」という定番のセリフつきで。

「このままじゃ相続税の納税資金が3億円以上も不足しますよ!アパートを建てれば、相続税が大きく減りますよ!サブリースがあるから空室になっても大丈夫ですよ!」と、彼はパチンコ店の大音量のごとく呪文のように大手銀行と大手ハウスメーカーに繰り返し唱えられていたのです。
しかし賢いA氏は、自身が土地を持っている地域は人口が減り続けるなど衰退を続けており、借入をしてアパートを建てたら余計に状況が悪化することに気がついていました。そのため、どうしたら良いかわからず不眠症になるまで悩んでいたのです。

私が収益還元方式で試算したアパート建物の時価は、大手ハウスメーカーが見積もってきた建築費の約半分程度でした。つまり建てた瞬間に「相続税の節税効果」の数倍に相当する1棟あたり数千万円の含み損です。しかも3棟・4棟とたてれば、瞬く間に含み損は1億円・2億円になるでしょう。
しかしたまたまA氏が書店で私の書籍を手にとらなければ、やがて不眠症からノイローゼ気味になり、大手銀行と大手ハウスメーカーに言われるがままアパートを3棟・4棟と建てる決断をしていたでしょう。しかしA氏はアパート建築をやめて、私の正しい試算を基に、母親と兄弟を交えて家族会議を開き、母親が元気なうちに、兄弟全員も納得するような公正証書遺言の作成にこぎつけることができました

このように本件はハッピーエンドを迎えたかのように思えますが、私が「あなたは相続税の納税資金なんて不足していませんよ。それどころかきちんと戦略を立てて行けば先祖代々の土地を一つも売ることなく、2次相続はクリアできる可能性まであります」という真実をA氏に教えたことで、迷惑している人が実はいます。

それは誰でしょうか?
ズバリこの大手銀行と大手ハウスメーカーです。もう少しでA氏が3棟・4棟と多額の借入金をしてアパートを建てたのに、取り逃がしてしまったのです。

もちろんアパート経営が失敗すれば、大手銀行や大手ハウスメーカーも困るのではないかと思う人もいるかもしれませんが、そのような考えは甘い甘い。まずアパート経営は新築して5年~10年で破綻するケースというのは少なく、目に見えて経営状況が苦しくなり始めるのは早くても築10年目くらい、多くは築15年目以後です。

しかしハウスメーカーは新築時に一儲けして終わりですし、サブリースだって通常は10年経てばいつでも家賃の引き下げや打ち切りが可能ですから、経営状況が悪化する頃にはいつでも逃げられる体制が整っているのです。大手銀行の担当者だって、その頃には異動しているでしょうし、そもそも先祖代々の土地を多数有するA氏の不動産を順番に競売にかけて行けば、貸倒れになることはまず考えられないのです。

このように考えると大手銀行は最初から意図的に相続税額を多く見積もっていたのではないかと勘繰りたくなります。仮にA氏がそれに気づいても「所詮無料ですから。アハハ」で済ませられるように、敢えて「タダ」にしているとしたらなかなかの策士です。

いずれにせよ銀行やハウスメーカーは、お金を貸したりアパートを建てさせなければ仕方ないのですから、そのような方向に誘導するような偏向した意見を出してくるのは当然と言えば当然です。
「ウチは地主で、どこの金融機関もハウスメーカーも取り合いなんだ。だからウチを顧客にするために、皆、タダで良い情報を持ってくるんだ!」などと寝言を言ってちゃいけません。先日、自宅を競売にかけられた元大地主の方の亡父もそれが口癖だったそうです。

不動産オーナーの皆さん。使い古された言葉ですが「タダほど高いもの」はありませんよ!

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