改正民法下での賃貸人の敷金返還義務

A社が賃借している物件の賃借権を、コロナ禍での経営難により他社に譲り渡す際に、賃貸人=ビルオーナーサイドに敷金の返還を求めてきた事例について児玉先生に解説していただきます。

(質問)
弊社は、2020年5月にA社に飲食店舗としてビルの1階を賃貸しましたが、今般、A社はコロナ禍での経営難を理由に退去することとし、他社B社に賃借権を譲り渡すこととなり、弊社もこれに承諾しました。A社からの預かり敷金は、そのままB社に引き継がれるものと思っていましたら、A社から返還請求を受けました。これに応じなければならないでしょうか。

(回答)
結論として、貴社は、元賃借人A社に対して敷金を返還しなければなりません。そして、新賃借人B社から敷金を差し入れてもらわなければなりません。
改正民法は、2020年4月から施行になり、貴社の賃貸借にも適用されます。改正民法では、敷金の定義や敷金の返還時期などの規定が、これまでの最高裁判例を踏まえて定められました。

敷金とは、名目を問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づき生じる賃借人の賃貸人に対する金銭債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭です。そして、敷金は、一定の場合に、未払の賃料債務の他に契約終了後明渡しまでの賃料相当損害金、賃借人の原状回復債務、用法違反による損害賠償債務などの額を控除した残額を返還します。

返還の時期は、賃貸借契約が終了して物件の返還又は明渡しがされたときが典型ですが、それ以外にも、賃借人が賃貸人の承諾を得て賃借権を他に譲渡したときも、これに当たります。このことが、改正民法の敷金の条項に明記されています。

そこで、貴社のケースでは、賃借人AがBに賃借権を譲渡し、賃貸人である貴社はこれを承諾していますので、貴社は、敷金を差し入れた従前の賃借人Aに敷金を(Aの債務を控除した後に)返還しなければなりません。敷金の権利を新賃借人BがAから引き継ぐものではありません。この理は、改正民法で突然に決められたものではなく、既に旧民法の下、最高裁昭和53年12月22日第二小法廷判決で、土地賃借権の事例ですが、賃借権が賃貸人の承諾を得て旧賃借人から新賃借人に譲渡された場合、特段の事情がない限り、敷金は新賃借人に承継されない旨判示されています。

なお、以上と異なり、貴社が物件を第三者に譲渡してオーナーチェンジし賃貸人が変更になった場合は、敷金は賃貸のための担保ですので、この新賃貸人がAへの敷金返還義務を承継します。このことは、改正民法にも明記されていますので、ご参考までに。

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