不動産賃貸借におけるトラブルへの対応実務 -原状回復・建物改築時の明渡し・トラブルについて- vol. 1(現状回復費用)


■設例

建物(昭和40年代建築)のオーナーA社は、テナントBとCに事務所の用途でワンフロアを賃貸していたところ、同建物は、耐震診断の結果、耐震強度は新耐震の基準をおよそ満たしていないことが判明したので、この機会に新耐震基準を満たすビルに改築する計画を立てて、B、Cとの各契約を終了させる交渉をした。

(1)現状回復費用
Bは、A社からの賃貸借契約の解約申入れに異議を唱えることなく、賃借フロアの鍵を全て返還し、A社はこれを受け取った。
賃貸借契約書の原状回復条項としては、『原状回復工事は、床タイルカーペット貼替え、壁クロス貼替え、天井クロス貼替え、及び室内全体クリーニング仕上げ等の工事を基本として、賃借人の負担とする。』

『賃借人が本契約終了日までに原状回復を行わないときは、賃貸人は自ら原状回復措置をとることができ、その費用を賃借人に請求することができる。』との定めがあった。

しかし、Bは、原状回復をしなかったので、A社は、やむなく自分で原状回復工事を行い、その費用を敷金から差し引いたうえで残額の敷金の返還をした。これに対し、Bは、「A社の原状回復費用は経年劣化又は通常損耗分を含んでいるが、自分はそうした部分の負担をする義務はない。」と述べ、A社に対して、不足分の敷金の返還請求の訴訟を提起してきた。


■解説

1. 法律の定め

賃借人は、賃貸借契約が終了した場合には、賃借物件を原状に回復して賃貸人に返還する義務がある(民法第616条による同597条、同598条の準用と解釈)

(ご参考)
改正民法第621条  賃借人は、賃借物を受け取った後にこれに生じた損傷(通常の使用及び収益によって生じた賃借物の損耗並びに賃借物の経年劣化を除く。以下この条において同じ。)がある場合において、賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。ただし、その損傷が賃借人の責に帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

<原状回復とは>
① 賃借人は、物件を通常の方法により使用収益をしていればそうなるであろう状態で(使用開始時よりも状態が悪くなっていても)そのまま返還できる。= 経年劣化や通常損耗については、原状回復義務は負わない。
② 賃借人は、故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗(特別損耗)については、原状回復義務を負う。


2. 通常の使用を超えるような使用による損耗(特別損耗)とは?

国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」により例示され、また判例でも解釈の例あり。


○東京地裁平成25年3月28日判決

住宅目的の賃貸借 賃貸期間8年

<国土交通省のガイドラインに関して>
⇒ 壁、天井について、たばこに起因すると推認される黄色変色が一部について存在するも全部ではなく、賃借人が賃借していた期間が8年間を超えることからすると、同変色は通常損耗を超えるものとは認められない。


○東京地裁平成25年11月8日判決

住宅の賃貸借、猫一匹の飼育を認める特約あり 賃貸期間12年

<フローリングの工事(全面張り替え)について>
⇒ 一部については、飼い猫の糞尿等を長期間放置したことによる腐食であり、通常の使用による損耗を超えるもので、賃借人の善管注意義務違反による(猫の飼育の承認もこれを軽減まではしない)。
ただ、フローリングの全面張り替えは、新築後17年間の経年劣化や通常損耗にかかる部分を修復する工事も含まれる。 → 工事代金の30%を賃借人に負担させる。


○東京地裁平成27年9月16日判決

住宅の賃貸借 賃貸期間4年

<壁クロス貼り替え工事>
⇒ 本物件の壁のクロスは、落書きや剥離により毀損等が全般的に見られ、通常の使用から生じる損耗の程度を超えるものが多い → 主たる原因は賃借人の善管注意義務違反にある。

<床クッションフロア張り工事>
⇒ 本物件のフローリングには、汚損やたばこの火を押し付けた焦げ跡が、また押入れには汚水等によるとみられる目立つしみの痕跡がみられ、通常の使用から生じる損耗の程度を超える。 → 主たる原因は、賃借人が必要な清掃を怠ったことなどの善管注意義務違反にある。



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