Q.弊社は、所有する旧耐震の貸ビルを近い将来新耐震建物に改築予定です。
今回、テナントが退去して空室が出たので、これを新たに賃貸するに当たり、近い将来の取り壊し・改築のため、立退料などの問題が生じることなくテナントのスムーズな退去を期したいと思います。ただ、明確に何年後に取り壊し・改築という予定はないのです。
しかし、取り壊すまでの期間はこちらで決定したく、決定したらすぐ退去・明渡しをしてもらいたいので、「一時使用賃貸借契約」を締結したいのですが、法的にはどうでしょうか。
A.結論的には、一時使用の賃貸借契約は無理と思われ、貴社には、定期借家契約の締結をお奨めします。
確かに、普通借家契約にしますと、借地借家法により期間満了となっても当然には契約は終了せず、更新を拒絶して契約を終了させるには「正当事由」を必要とし、その補完として立退料の提供も必要となります。
この点、借地借家法第40条には、一時使用の賃貸借契約という方法が認められており、そこでは前記の借地借家法の規定の適用はなく、テナントに正当事由なくして契約終了による退去明渡しを請求できます。
しかしながら、一時使用の賃貸借契約は、現行の借地借家法の解釈として、商品展示場、貸別荘などの場合、あるいは半年後などわずかの期間経過後に第三者の入居が決まっている建物をテナントがあえて欲して借りる場合のように、テナント側の事情による一時的、臨時的な場合について認められ、賃貸人側の都合による場合は認められ難いと思われます。
なぜなら、賃貸人側の事情で一時使用が認められますと、賃貸人の都合で正当事由なくしてテナントに契約終了による退去・明渡しを請求できることとなり、借地借家法が骨抜きとなるからです。
そこで、貴社のケースでは、一時使用による賃貸借は認められないと思われます。
なお、関連して借地借家法第39条は、取り壊し予定建物の期限付き賃貸借契約を認めていますが、これは、都市計画法などの法令の発動又は定期借地契約の期間満了などによる終了に備えて、地上建物の期限付き賃貸借を認めるものに過ぎず、場面が限定されており、貴社のケースにはあてはまりません。
定期借家契約がおすすめ。1度目の契約期間は3年を目途に
そこで、近い将来の取り壊し・改築に備えつつそれまでの間賃貸したいという貴社のニーズに有効にマッチするやり方としては、期間を例えば3年程度とする定期借家契約を締結し(期間満了で更新がないとする説明書面の交付もお忘れなく!)、期間満了となってもなお取り壊し・改築の目途が立たないときは、改めて新規に例えば1~2年程度の定期借家契約を締結するといった方法がよいと思います。
定期借家契約は、期間満了により終了し更新がありませんし、もとより正当事由など無しで期間満了による契約終了となりますので、この制度を柔軟に活用することです。