企業オーナーの事業承継対策について

一般的に「相続対策」は早く着手するほど選択肢が多く、効果的な対策を行うことが可能です。企業オーナーの「事業承継対策」の場合には、身内だけの問題ではなく、従業員や取引先などの関係者にも影響が及びますので、より時間をかけて万全の準備を行うことが必要となります。

事業承継対策を進めるにあたっては、「後継者がいるかどうか」、により大きく方針が変わります。


<後継者がいる場合>

子供が自分の後を継いでくれる、又は従業員の中に後継者候補がいる、という場合には、いかにスムーズにその後継者に権限委譲をしていくのかを考える必要があります。事業承継のためには、後継者の育成や、従業員・取引先・金融機関等の理解を得ることなど、様々な準備が必要となりますが、下記では主に税務面における注意点につき解説いたします。

非上場会社では、所有と経営が一致していることが多く、社長が大株主である、ということが一般的です。「もう息子に社長の座を譲って自分は隠居しているよ」と仰る方でも、自社株式は移転しておらず、ご自身で保有したままのケースが散見されます。事業承継を行う際には、社長という立場を譲るだけでなく、株式の移転まで完了させる必要がありますので、ご注意ください。

株式を移転する際に問題になるのが、税金の負担です。自社株式を贈与・相続により移転すると、その株価に応じて贈与税や相続税が課税されます。贈与税・相続税は現金一括納付が原則となりますが、自社株式は市場がある上場株式と異なり、第三者に売却することは困難なため、自社株の移転に対して多額の税金が課税された場合には、納税資金を準備することが難しくなり、場合によっては会社の経営継続にも影響を及ぼします。


(参考)

非上場会社の株価は、主に「類似業種比準価額」と「純資産価額」を使用して評価します。

  • 類似業種比準価額 ・・・ 類似する業種の上場会社と、自分の会社を比較し、1株当たりの配当・利益・純資産の3要素を比準させて株価を算定する方法です。主に会社の収益力を基にした株価算定方法で、多く利益を出している会社の株価が高くなる傾向があります。
  • 純資産価額 ・・・ 会社の保有する資産を、評価時点の時価に引き直して計算した純資産価額により株価を算定する方法です。含み益のある不動産等を保有している場合には、株価が高くなる傾向があります。

株価は、贈与や相続の直前の決算数値を基に算定されます。そのため、たまたま相続が起こる直前に業績が良かったような場合には、株価の高騰により思わぬ相続税負担の増加が起こる可能性があります。逆に言うと、株価が低いタイミングで贈与をすることで税負担少なく株式の移転が可能となりますので、有利に対策を進めるうえでは、事前に株価を計算した上で、株式の移転スケジュールを検討する必要があります。


【事業承継税制】

事業承継税制とは、非上場株式に係る贈与税・相続税の納税猶予制度です。事前に届出をしたうえで、企業経営を継続するなど一定の要件を満たした場合には、後継者に贈与・相続で移転した自社株式につき、贈与税・相続税が課税されません。この納税猶予制度については、平成30年度の税制改正で特例措置が創設されており、期間限定(※)で、元の規定よりも大幅に要件を緩和した形で特例の適用ができることとなっています。そのため、株価が高く、将来の相続税負担が多額になりそうな会社のオーナー様は、本制度の適用を検討することをお勧めいたします。

(※)令和5年3月31日までに「特例承継計画」を策定して都道府県知事に提出し、令和9年12月31日までに贈与・相続をした場合に適用されます。


<後継者がいない場合>

後継者がいない場合には、M&Aで会社を第三者に売却するか、それとも自分の代で事業を辞めて廃業するか、という選択を迫られます。M&Aをする場合には、買主を探すのに時間がかかり、また、自分の希望する条件で売れるかどうか、買主と何度も打ち合わせを重ねる必要があります。そもそも買い手が買いたいと思うような会社でないと、売ることはできないため、自社の磨き上げが必要となり、いずれにしても準備には相応の時間がかかります。廃業を選択する場合にも、今日で辞めます、と急に廃業できるものではなく、借入などの債務がある場合には全て精算し、従業員がいる場合にはその退職手続きを進め、取引先にも迷惑をかけないようにするためには時間をかけて手続きを進める必要が生じます。

自分が一生懸命経営してきた会社は、わが子同然だと思います。最後の最後に、望まぬ形で会社を手放さなければならない、というようなことが無いよう、しっかりと事業承継対策を行いましょう。対策をするうえでは、現状把握が大事です。税金がいくらかかるかにより、取るべき対策も異なってきます。対策の第一歩として、まずは自社の株価を計算してみることをお勧めいたします。

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