不動心

タイトルの「不動心(ふどうしん)」ですが、案外聞きなれない言葉かもしれませんね。簡単にいえば「ものごとに動じない心」のことです。これが不動産と何の関係があるのか?思うに不動産は「持つは不動心、持たぬも不動心」なのです。禅問答ではございません(笑)。わたくしの経験を少々お話しいたします。

わたくしはバブル真っ盛りのころに世田谷に数千万円のマンションを購入しました。三菱銀行で住宅ローンを組み、毎月の支払いは30万円程。当時年収が高かった私にとっては大した額ではありませんでした。むしろ終(つい)の棲家(すみか)を手に入れて「不動心」が得られました。不動産は「持つは不動心」です。「しか~し」、時が流れバブルははじけ先行きに不安が兆したころには、当初の不動心はどこへやら、毎月のローン30万円が不安材料となり、気分は暗雲低迷。悩んだ末、マンションは売却することに決めました。税理士の助言もあり、買い手がついたのを幸いに、マンションは無事売り払うことができました。譲渡契約の際には三菱銀行から立ち合い担当者が来てくれて、ローンの清算も1千万円程度で済みました。

その後もう持ち家はこりごりだと思い、JR中野駅前のタワーマンションに賃貸で入りました。駅から5分ほどで、雨にも濡れずに帰れるマンションでした。中野サンプラザの真裏です。ローンの心配はもちろんなく、所有者の総会などの面倒もなく、気軽な安心感が芽生えました。その時、不動産は「持たぬも不動心」だと感じたものです。ところが、またしても「しか~し」です。マンション横の警察学校が移転し、その跡地にゴミ焼却炉が建つことになったのです。近隣住民の反対運動が起きましたが、聞けば中野区役所の対応は「ゴミ焼却炉を建てない代わりに火葬場を建設する」というものだったそうです。わたくしはもちろん引っ越しました。賃貸でよかった、賃貸は安心だ、とつくづく思ったものです。やはり「持たぬも不動心」です。

それではわたくしのような一般庶民にとって、不動産は持つ方が良いのか持たない方が良いのか、どっちなんでしょうか。国民が減少しつづけバブル再燃の可能性もない今、わたくしは「持つは不動心」だと思っています。その判断にはわたくし自身の高齢化も影響しています。高齢者には賃貸は厳しい。持ち家にのんびりと暮らすのが良いと思うに至っています。都心部の、駅に近いマンションが欲しいです。


寺西 知行

■プロフィール
ライデン大学(オランダ)客員研究員、湘南工科大学非常勤講師などを歴任。現在は進学高校で受験指導をしつつ大学の入試問題を作成するなど、主として大学受験に携わっている。趣味は万年筆の蒐集、各種の辞書を読むこと。

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