遺言による信託

近年、相続対策の一環として注目されている方法に、民事信託(家族信託)があります。前回の不動産トレンドでは、「収益不動産がある方の認知症対策」として民事信託を紹介しました。今回は、「遺言による信託」について解説します。

Aさんは、今年で75歳になります。妻Bさんと二人暮らしですが、子供はいません。Aさんが亡くなった後、Bさんの生活に不自由がないよう、自宅や預貯金の全てをBさんに相続させるつもりです。しかし、Bさんが亡くなった後、特に先祖から引き継いだ自宅の不動産については、Bさんの親族ではなくAさんの甥Cさんに引き継がせたいそうです。Aさんは、遺言書でこのような希望を叶えられないかと考えています。いったい、どんな遺言書を書けばいいのでしょうか?

Aさんの希望を遺言書で実現する方法として、AさんとBさんがそれぞれ遺言書を作成する方法があります。「Aさんの死後、全ての財産をBさんに相続させる」という内容のAさんの遺言書の他に、「Bさんの死後、財産をCさんに遺贈させる」という内容のBさんの遺言書も作っておく方法です。しかし、この方法だとAさんの死後、Bさんの気持ちの変化による遺言書の書き換えのリスクがあることは否定できません。

一方、Aさんの希望をAさん自身の遺言書だけで実現する方法があります。遺言書で次のような信託を設定する方法です。

『Aさんの死後、受託者をCさん、受益者をBさんとして、Bさんが生きている間はCさんがBさんに必要な生活費等について、Aさんの遺産から給付を行う。また、Bさんの死亡によりこの信託は終了し、残った財産の帰属先はCさんとする』

こうすれば、Aさんが亡くなった後のBさんの生活は守られ、先祖から引き継いだ自宅の不動産を含むAさんの遺産は、Bさんを経て、最終的にCさんが承継することになります。

遺言書で信託を設定することを「遺言による信託」といいます。ちなみに、「遺言による信託」と信託銀行が提供している「遺言信託」サービスは別物です。信託銀行の「遺言信託」は、遺言書の作成サポート、遺言書の保管、遺言執行という3つの業務をパッケージにした、民事信託とは異なるサービスです。ご注意ください。

このように、実現できる相続対策が通常の遺言書よりも広がる民事信託ですが、家族によって状況や希望は異なり、信託の内容をただ雛形にあてはめて安易に作成しても、不備があると逆にトラブルの元になりかねず、慎重かつ丁寧な検討が必要です。実際に検討する際は、民事信託に詳しい弁護士、司法書士などの専門家に相談されることをお勧めします。

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