空室率の高い地域ほど、高齢者入居が満室経営の救いの手に

「高齢だからといった年齢制限だけで、入居を拒むと空室を埋めるチャンスを逃してしまうおそれがあります。地方の空室率が高い地域ほど、高齢者を積極的に受け入れていくことが今後必要になってくるでしょう」と話すのは、賃貸管理クレーム専門家の「クマさん」という愛称で親しまれているベルデホームの熊切伸英統括部長です。

高齢者の賃貸住宅への入居について、読者の皆さんはどのようなイメージを持たれるでしょうか。高齢者は死亡するリスクが高いというイメージや嫌悪感が先行する方も多いかもしれません。しかし、病死や自殺は年齢に関係なく誰にでも起こりうる問題なのです。

社会から孤立した50~60代は要注意

というのも、日常生活をサポートするケアワーカーや、生活困窮者の援助や相談に乗るソーシャルワーカーのサービスを受けている高齢者は、問題発生時に担当者からの報告や連絡などがあるため、孤独死することがあっても早期発見することで事態が重篤化することを防ぐことができるからです。

ただ本当に注意が必要なのは、熊切統括部長曰く、「貯蓄はあるが独り暮らしの退職者で、家賃を口座振替にしている入居者さん」なのだとか。というのも社会から孤立した状況の住人が孤独死すると発見が遅れ、室内の劣化が激しくなるからです。

これから紹介するお話は、熊切統括部長が実際に担当した事例です。

ことの発端は、隣の住人から「窓にハエがたかっており、異臭がする」という一報でした。問題の部屋の入居者は高齢者のイメージが無い60代の方で、連絡が入った時は、ゴミを溜め込んでいるのかと思ったのですが、「今まで一度も、嗅いだことのないような異臭がする」という話から危機感を感じた熊切統括部長は、警察官に同行してもらい、入居者宅に行きました。予感は的中。腐敗した遺体の状況から、死後3カ月が経っていることが判明しました。

「大企業を定年退職したばかりだったので、貯金もあったのでしょう。家賃は毎月口座振替されていました」(同氏)。期待していた入居者の加入保険は旧条件で更新されていたため、原状回復費用は10万円までしか保証されませんでした。オーナー様に原状回復とフルリフォームで約300万円がかかるという話をすると、「まさか入居者が死亡するとは…」と気が動転している様子で、費用負担は遺族(保証人兼相続人)にお願いしてほしいと懇願されました。

原状回復交渉の多くは難航する

確かに、自殺といった入居者に過失があるものは、遺族に賃料の減額を余儀なくされた損害賠償を請求することは可能ですが、今回のような病死のケースでは、入居者が故意に亡くなった訳では無いので、請求できても残置物撤去や特殊清掃等、純粋な原状回復程度の請求となります。まして、バリューアップ費用等は、原状回復の範疇(はんちゅう)ではなく、当然にオーナーが負担すべき費用なのです。

遺族側からは、オーナーの主張する費用を支払うことを拒否されたことで、部屋のリフォームや募集ができない状態となったのですが、熊切統括部長は訴訟になると管理会社は関与できないので、弁護士先生にお願いして欲しいと入居者の遺族に説明したところ、争うことはしたくないので、原状回復費用と特殊清掃費用がまかなえるだけの金額の支払いを頂けたそうです。オーナー様は金額に不満で、しばらくリフォームに着手してくれなかったのですが、このままでは空室期間が延びるだけだと悟ってもらったことでリフォームに着手。

室内の奇麗さと割安感が決め手に

無事、募集開始ができた物件は広告媒体に載せず、自然死があったことに抵抗がなさそうなお客様を慎重に見極めて告知した上で紹介しました。遺体発見から実に1年の歳月がかかりましたが、フルリフォームで新築同様になった物件と割安に設定した家賃に魅力を感じた人が入居しました。

「他人事としてとらえるのではなく、もし自分の物件で死亡事案が発生した場合にどうなるか、日頃から“イメージトレーニング”することが重要です。どう対処するべきか普段から考えておくことで、万が一の場合に慌てず対応することができます。仮に、お亡くなりになったとしても早期に見つけられる手段を考え、それでも不安な場合は、原状回復費用などは保険に入ることでリスクヘッジできます」(同氏)

未然に人の死を防ぐことは困難ですが、最近では、見守りサービスやセンサーなどの商品が揃いつつあります。万が一の場合に早期発見できることが一番重要なのですが、費用がかかるのが現実です。費用をかけることについては個々の経営判断となる話で一概には言えませんが、孤独死などに対応した保険に入ることで損失を回避することが現実的対応といえそうです。


熊切伸英氏
『ベルデホーム株式会社』(埼玉県久喜市)統括部長。『助けてクマさん!賃貸トラブル即応マニュアル』。『帰ってきた助けてクマさん!賃貸トラブル即応マニュアル』。全米不動産管理協会認定CPM® 、宅地建物取引士ほか。賃貸管理クレーム日記 http://tintaikanri.livedoor.biz/ 絶賛更新中!

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