アパート経営の収支がV字回復したケーススタディ

こんにちは。J-REC公認不動産コンサルタントの大友哲哉です。
今回は、アパート・マンション経営の事例研究で、賃貸経営上の危機から収支がV字回復した事例を紹介します。大きな失敗をした大家さんは、任意売却や競売により物件を手放してしまうことが多いため、その失敗事例を知ることは困難となります。

そこで大失敗の一歩手前で収支がV字回復し、今もアパート経営を続けている大家さんから学ぼう、という趣旨となります。なお、事例は、複数の事例や取材を元に創作したフィクションであることをお断りさせていただきます。

今回は「駅から遠い物件の空室対策」です。今回の大家さんの危機は、8部屋中5部屋が空いてしまったところから始まります。また、管理会社に相談していたものの、最終的にお手上げと宣告されたことです。

さらには家賃滞納者もおり、空室と不良入居者問題で、一体何をどうしたらいいものかと呆然としてしまったと言います。彼のV字回復は、当時の管理会社に任せっきりにしていた自分を反省したことから始まります。本題に入る前に、今回の物件概要を見てみましょう。

物件プロフィール
住所:東京都城北エリア
交通:各駅停車駅徒歩14分
物件:1K(バス・トイレ一体) 22㎡ 8戸 木造 築20年
典型的な3点ユニットの1K木造アパート。建物の性能としては、上下左右の部屋のテレビの音が聞こえるレベル。

物件プロフィールのように、駅と駅のちょうど中間に位置していて、物件そのものには特徴のない木造アパートです。そして周囲もこれといった特徴がありません。しいて言えば最寄駅前に、大型ショッピングセンターがあり、映画館も併設されています。しかし、各駅停車の駅のため、ターミナル駅までの所要時間は長めです。

次に大家さんのプロフィールを見てみましょう。高齢の叔母が所有している物件の一部を所有し、管理会社とやりとりしていました。とはいうものの会社員ですから、管理会社に全てお任せ状態でした。

大家さんプロフィール
年齢:50代後半
性別:男性
職業:会社員
コメント:物件までは片道一時間半。将来的には本物件を相続する予定。

さて、このように特徴もなく、駅から遠い物件は、どのような空室対策をすれば良いのでしょうか?それは、駅を利用しない入居者を想定し、彼らにとって喜ばしい入居条件やルールを作り、また設備に投資をしていくことです。

なぜなら、駅を利用しない入居者にとって、駅距離は関係ありません。ただ、それだけでは周囲の競合物件と差別化できませんので、プラスアルファは必要です。では、今回の物件でどのようなことを実行していったのか、順を追って見ていきましょう。

最初に行ったことは何ですか?

始めに、これまでの入居者の傾向を調べました。ここで特徴が見えてきました。年代は20代040代で一般的な単身者向けですが、なんと女性入居者はゼロ…今まで女性が入居したことがないのです。そして駐車場契約者もゼロ。実は、この物件の半地下部分に、4台分の駐車場がありますが、今まで誰も借りたことがないのです。

次に行ったことは何ですか?

このアパートは女性に不人気で、しかも駐車場は無駄でしかない、と新築当時の粗悪な企画に落胆しても仕方ありませんので、これは「ちょうどいい!」と前向きに受け止めます。駐車場が使われていないのなら、これから利用できる空間があるのですから。

そこで、駐車場をバイク置場主体にすることにしました。もともと誰も借りていないものですし、そもそも入り口の高さが低いので、多くの車種が入らないのです。また、近隣には月極駐車場が多数あり空きも十分にありましたので、万が一、車を使う人がいても大丈夫だと考えたのです。

またバイクの駐車違反も厳しくなった時期でもあります。バイクでも路上駐車していると、違反切符を切られるようになったのです。そこで、きちんとしたバイク置場のある物件が求められるのではと考えました。バイクはサイズによって毎月の利用料を変えて徴収することにしました。大型、中型、小型・原付、自転車の4区分です。その結果、少しずつ内覧者が増え、一人二人と入居してきたのです。

次の展開はどうしましたか?

バイクユーザーをメインターゲットとすることで、内覧が増えてきて、満室への手ごたえを感じました。そこで、設備投資の決心をしました。

では、何に設備投資するのか?それは、バイクユーザーに喜ばれるようなものです。ただ、自分の思い込みだけでは失敗するおそれがあります。そこで、新しい入居者さんにヒアリングすることにしました。

すると「盗難が心配」との意見が出ましたので、バイクの盗難対策を行いました。盗難の手口は、力ずくでバイクを持ち上げてトラックで運び去るとのことです。そこで、盗難防止チェーンを括り付けられるようなバーを設置しました。これでそう簡単には運び出せなくなります。

実際のバイク置き場

また、原状回復時に、男性のバイクユーザーの嗜好に合いそうなシックなカラープランニングで内装イメージを刷新しました。

デザイン料は5万円程度です。壁紙や床の色を変えるだけなので工事費そのものは変わりません。また、ミニ・キッチンをIHに交換し、テレビモニター付きインターフォンを設置するなど、一般入居者にも喜ばれるような、数万円程度の投資を行いました。

その結果、どうなりましたか?

わずか3ヶ月程度で満室となりました。8部屋中半分以上がバイクユーザーです。家賃も多少下げましたが、バイク置場が有料のため、トータルではプラスになっています。入居者の中には大型・中型・原付と3台借りる人もいるくらいです。もちろんバイク置場の料金は3台分いただいています。

なお、以前からいる入居者の家賃滞納も解決できました。連帯保証人の父は知らぬ存ぜぬの一点張りだったので、一時はどうしたものかと思いましたが、本人から少しずつ返済していただきました。これも満室の目処が立ったことから、家賃回収より退去を優先して、次の入居者を入れようと判断できたのが、結果的に良かったと思います。

今だったら、もっと良い方法があったと思いますか?

今思うと、盗難対策のために防犯カメラを設置しても良かったと思います。その後、長期入居化を狙い、インターネットを無料化したり、外壁塗装なども行ったのですが、そのタイミングに併せて防犯カメラを設置すれば、それほど高くはない費用で設置できたようです。

今後の目標は?

更なる長期入居化です。実は、バイク置場の裏側にトランクルームもあります。これを入居者に提供することで長期入居化にならないかなと。ただ半屋外なので保管できる物に限りがあります。ここを綺麗にするには結構お金が掛かります。また、大量の荷物を残したまま夜逃げされると困ります。

大友からのアドバイス

トランクルームの活用についても入居者の要望を外さないようにアンケートを取ることをすすめました。早速、大家さんは実行したものの、使いたいとの回答はゼロ。現状ではリスクを考えると利用しないのがベストのようです。

あとは、トランクルームの専門業者に一括して借上げてもらう方法もあります。内装工事が業者負担となりますので、賃料は期待できません。そもそも借上げてくれないリスクのほうが高いです。それでも地道に業者に当たってみることです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。駅から遠い物件でも収支がV字回復できた事例をご紹介させていただきました。
駅から遠いと、そもそもネットで検索すらされない・競合物件も多い、と諦めがちですが、駅を利用しない、通勤・通学に電車を使わない入居者層にアピールできる要素がないか、検討してみてはいかがでしょうか。

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