【緊急座談会】これだけは覚えておきたい! 3つのポイント 2020年民法改正が不動産会社とビルオーナーに及ぼす影響

明治29年に制定されて、120年以来の大改正といわれる民法の一部改正が、2020年4月1日に施行されます。これに先立ち、どのような変更点があるのか、不動産業界に精通した児玉譲弁護士を交え、緊急座談会を実施しました。
読者の皆さまに大いに関わる領域に絞り、Q&A方式で徹底解説します。

取材・文/岡田寛子 法律監修/飯沼総合法律事務所

改正民法による個人保証の極度額の定めについて

―岡田:本日は皆さまお集まりいただき有り難う御座います。司会を務めさせていただきます岡田です。
2020年4月以降の民法改正に伴うビルオーナーや不動産会社に与える影響などを中心に、飯沼総合法律事務所弁護士の児玉譲先生にお話を伺いたいと思います。
ビルオーナーを代表して、和田様にご参加いただきました。
当社からは、事業用ビルの担当責任者の羽生が参加させていただいております。
本日は、どうぞよろしくお願い致します。それでは早速ですが、和田様、自己紹介をお願い致します。

―和田寛氏:私は代々木上原駅から徒歩30秒の場所にあるテナントビルを経営しています。
先代より、土地・建物ともに相続しました。
昨今はこちらを担保に入れ、賃貸住宅を4棟購入、現在は3棟14戸所有しています。

―岡田:有り難うございます。和田様はテナントビルを所有しているとのことで、今後の経営の中で、気になる民法の改正点はございますか?

―和田寛氏:はい。新民法下では、保証契約締結時に連帯保証人の極度額を設定しなくてはいけないと聞きました。
オーナーはどのくらいの金額を保証人に提示するのが良いのでしょうか?

―岡田:児玉先生、具体的に改正のポイントと変更点を教えていただけますか?

―児玉先生:現行民法下では、連帯保証人が負う保証金額の上限を契約時に定めることは、求められておりません。
ですから、保証人の保証範囲は賃借人の賃料や原状回復などの債務と同じなので、責任範囲は確定しておらず、つまり保証範囲は青天井というわけです。
しかし新民法下では、保証人保護の観点から、保証の限度額としての極度額を保証契約の際にあらかじめ定めることになりました。
極度額の定めとしては、〇〇円のように確定的な金額でないといけませんが、例えば「賃料〇カ月分」といった定め方も、契約書上賃料額が明確で極度額が確定できるなら有効だと解釈されています。

―和田寛氏:そうなると、「このくらいの額が妥当」といった基準はありますか?

―児玉先生:基準は、法文上定められていません。
ですから、オーナー様としては滞納が発生した場合や原状回復の怠りがあった場合など、どのくらいの損害を被るか予測して金額設定する必要があります。

―和田洋子氏:では、どのくらいの金額が妥当なのでしょうか?

―児玉先生:はい、セオリー的に言いますと、テナント入居者の滞納が発生した場合、通常3カ月分程度の滞納で契約解除が認められ、オーナー様は建物の明渡請求訴訟を起こすことになります。
判決が確定し、それに基づいて明渡の強制執行が実現するまでに、1年半から2年はみておいた方がよいと思われますので、その間の未払い賃料額、賃借人が負担するけど支払わないであろう原状回復費用などを算定し、そこに敷金や保証金を充当した残額を限度額として提示することになりますね。

―岡田:ということは、オーナー様としては、例えばテナント賃料が30万円の場合、裁判手続きの期間含めて未払い賃料で700万円程度、そして原状回復費用として数百万円でしょうか。
それに敷金として家賃の数カ月分を充当するとして、保証人になる方は800万円から900万円の債務を保証する内容で、そうした金額を極度額とする契約を結ばなくてはいけないということなのですね。

―児玉先生:はい。極度額の定めを要するとなると、オーナーとしては、リスク回避のためにそうした多額の極度額の提示をすることとなりますので、
テナントしては、従前スルーしていた保証の額について最初から多額である現実をつきつけられることになり、
よほどの魅力ある賃貸物件でないと極度額という条件設定でもめることとなるでしょう。

家賃保証会社の利用と注意

―岡田:そうなると、保証人側は連帯保証を断るケースが増え、テナント様は保証会社に頼まざるを得なくなりそうですね。

―児玉先生:はい。そうなっていくでしょう。最近では、家賃保証会社は200社以上あるのでしょうか。
実は、資格要件や契約内容などについて強制力ある法規制はなく、さまざまな問題をはらんでいるんですよ。

―羽生:参入障壁が低い分、保証会社の数が増加していますね。
問題があるとのことですが、先生のところには、どのような相談が寄せられているのですか?

―児玉先生:保証会社によって、保証契約の内容はまちまちであり、賃貸人サイドでは相当に契約内容の説明を受けないと保証履行について当てが外れることもあります。
保証会社については登録制はありますが、登録は任意であり、先ほど申し上げたように強制力をもって規制する業法はないので、何か問題を起こしても民法や宅建業法などで規制する以外は直接に規制する立法はありません。
また、今は経営状況が良くても、倒産する可能性はあります。倒産されてしまっては、なんの保証もしてもらえないというわけです。
契約件数を増やしたいばかりに、魅力的な部分は誇張するけども、オーナー様に不利になるような部分は小さな文字で、
「原状回復までは保証しません」などと解釈できる約款のあるような会社もあります。臆せず、保証会社の担当者にメリットやリスクを説明してもらうのがいいでしょう。

―岡田:ちなみに、約款の条項を変更してもらい、場合によっては削除するなどの交渉することは可能なのでしょうか。

―児玉先生:はい。第一に、内容の細部まで読みこむことは大切です。
契約を結ぶかどうかはその場ですぐに決断はせずに、不明な点があれば専門家に約款を確認してもらい、必要に応じて条項の修正など交渉を依頼することが重要です。

改正民法は従前の契約更新の場合適用があるか

―和田洋子氏:そうなのですね。実は、年内に2つのテナントの契約を更新する予定があります。
民法改正を見据えて、新しく契約をし直したほうがいいでしょうか?

―児玉先生:改正法は、原則として、来年2020年4月1日の施行の前に締結された契約には適用されません。ですので、年内に契約するのであれば、改正法の適用の問題は生じません。
ただし、改正法が施行された以降に賃貸借契約を更新するとなると、法定更新と合意更新とで違いが生じます。
法定更新とは、例えばテナントさんとオーナーさんとの間で家賃交渉を行っていたけれども、折り合いがつかず合意で更新がされなかったときでも、期間満了以降は法律上当然に更新となってしまうことをいいます。
こういったケースでは、更新された賃貸借契約には改正法は適用されず、旧法の適用を受けます。
他方、自動更新も含む当事者の合意に基づいてなされた合意更新の場合は、新法が適用されることになります。
なぜなら、当事者の合意をもって更新するわけですから、改正した民法が適用されるだろうという期待が働くと考えられるからです。
要するに、合意更新をしたときは、賃貸借契約には改正法の適用があるものと考えておかないといけません。

改正民法施行後の新法適用の時期

―岡田:なるほど。改正法の適用は、合意更新と法定更新とで異なるのですね。

―児玉先生:はい。それから、先ほどの和田さんのご質問には、賃貸借契約に伴う保証契約について例えば極度額の定めをしておかなくてもいいか、という問題が含まれていると思います。
その点については、賃貸借契約について合意更新がされようと法定更新となろうと、その保証契約は、施行日以降に新たに締結や変更がされたものでない限り、施行前の契約として、旧法の適用となります。
ですから、極度額の定めなどを考える必要はないです。
しかしですね、更新の際に賃料を増額するなど賃貸借の変更契約をしたような場合は、それに応じて保証契約も変更するはずです。
そうした場合は、変更という形で新たな保証契約をするので、その際には極度額の定めなど改正法に従うこととなります。

テナントや管理会社との付き合い方

―岡田:なるほど。有り難うございます。
次に、和田さんはテナントや管理会社との関係で困ったことなどはありますか?

―和田寛氏:不動産会社に管理をお願いしているのですが、大規模修繕を行った時、私がテナントさんと仲が良かったばかりに、「落下物が落ちてきそう」「音が気になる」といった苦情を直接私に言ってくるようになりました。
テナントさんとの距離感の取り方など教えていただきたいです。

―児玉先生:テナントとの間に管理会社がいるのですから、テナントとはある程度距離を置き、契約している管理会社にいろいろ見回りとか何よりもその都度の報告をして事態を把握するようにすべきでしょう。
管理会社にしっかり働いてもらわないと、いつの間にかテナントが造作をしたり、改装したりなどしていて後で気づいて騒ぎになるような事態もあります。

―羽生:テナントさんとオーナー様との関係性は、センシティブな問題が多いので、顔を見合わせた時にあいさつする程度にとどめておくのがちょうどいいかもしれません。
関係が良くても、ちょっとしたボタンの掛け違いで関係が悪化し退去にまで発展することもあります。管理・リーシングすべてを管理会社にお任せするのが一番です。

―児玉先生:管理会社さんでも、特に地場で昔からやっているようなところの運営実態は、ピンからキリまでありますよね。十分な知識のない管理会社もあります。
オーナーに定期借家契約を締結させたまではよかったものの、必要な説明書面をとることを指導しなかったために、
定期借家契約であることを主張できず、結局テナントに出てもらうのに余計な立退料を支払うなど苦労した例もありました。

羽生:実際、オーナー様がなにも言ってこない限り、提案や改善をしない不動産会社が多いのも事実です。
問題が起きなければ、動く必要もなく、管理料をいただくことができるからです。
しかし、オーナー様は不動産会社にフィーを払っているわけですから、管理報告書が届いた場合には、「何か管理上の問題点はありますか?」等の内容についてヒヤリングをし、「きちんと管理しているかどうかを見ていますよ」という姿勢を見せることが重要ですね。

―和田寛氏:私も、週1回は不動産会社さんに伺って管理状況を聞いています。電話もかけていますね。

改正法による契約不適合責任とは

―岡田:素晴らしい心がけですね。次に、児玉先生にお聞きしたいのですが、不動産売買に関わる改正もあるそうですね。

―児玉先生:はい。特に気になるのが、瑕疵担保責任に代わる契約不適合責任というものです。
現行の民法570条に「瑕疵担保責任」を定めた条文があるのですが、改正法下では、この制度が「契約不適合責任」に変わります。

「瑕疵」とは、一言でいうとキズとか不具合のことを言います。
旧法のもとでは、不動産のような特定物に隠れた瑕疵があっても、現状のままの引き渡しで債務の履行は完了します。

そして、損害賠償、場合により契約解除できますが、損害賠償として、売主は無過失でも隠れた瑕疵があれば、 「きちんとしたものを引き渡してくれるだろうという期待や信用したこと」に対する信頼利益と呼ばれる賠償であり、契約の準備費用などといった範囲の損害しか認められませんでした。ところが、改正法ですと、「瑕疵」に代えて、「契約の内容に適合しないこと」というより分かりやすい用語となります。

「契約不適合責任」という言葉通り、売買契約の内容に適合した目的物を引き渡さない限り、契約を履行したということにはなりません。
そのため売主に過失があってもなくても、買主は、追完請求として修補や代替物の引き渡し、不足分の引き渡しなど請求できますし、それに代えて代金減額請求もできます。
そして、債務不履行として、売主に故意または過失があれば、損害賠償請求ができ、また場合により契約解除ができるわけです。

改正前後で大きく変わること

―羽生:契約時に発見できなかった地中に物が埋まっていた場合や土地の用途変更なども「瑕疵」に含まれると思いますが、もし売主も買主も気が付かなかった場合でも、撤去費用など責任を負うことになるのですね。

―児玉先生:はい、その点は、旧法でも瑕疵として、売主は、撤去費用相当の損害賠償を負担することとなりますし、また改正法でも契約不適合として、売主は、無過失でも契約に適合した土地を引き渡すべく、埋設物の撤去などを自費でしなければなりません。

―岡田:買主保護という観点からは極めて優れた法律ですが、売主にとっては厳しい内容になりますね。

―児玉先生:そうですね。故意・過失無関係で売主側に責任が生じます。
ここで、注意しなくてはいけないことは、もし売主側で物件に問題があることを知っていたならば、必ず事前に相手へ伝えるということです。

「瑕疵があることを相手に言えば指値を入れられてしまうから言わない。ばれた時に賠償責任を払って解決すればいい」という安易な発想を持ってはいけません。訴訟に発展すれば、金額交渉で値下げしたであろう額よりも賠償責任で発生する損害金の方がより高くつくことがあり得ますし、そもそも売主の評判にも直接ダメージとなります。
ですから、『知っていることがあれば必ず事前に説明する』。これにつきます。

―羽生:そうですよね。例えば、事故があった物件を貸し出すといった場合、その賃料は2~3年は減額して貸すことになっても、4年目には元の賃料に戻っていることが大半です。しかし、事故物件の売買となると、事情は大きく変わりますよね。
同じスペックの物件の売買代金の約2割減となった例も見られ取引額に大きな差がでますから、先に申告しておく必要がありますね。

―児玉先生:はい。そうですね。判例では、数年前の自殺例や近隣の暴力団事務所所在の例で代金の2割相当の損害賠償を認めたケースがあります。
契約時に知っていることは、すべて正直に相手に説明することが重要です。
もし「これはどうなんだろうか」という疑問が浮かんだら、餅は餅屋ではないですが、専門家に相談してみてください。

―和田寛・洋子氏:今日教えていただいた情報を自分の賃貸経営に活かしていきたいと思います。

―岡田:大変有意義な座談会になりました。皆さま、有り難う御座いました。

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