民法改正の要!―店舗への来客自粛と賃料減額―

新型コロナウイルスの影響による休業要請で、売り上げが激減。テナントの賃料を支払うことが困難になり、入居者より賃料交渉が入るケースが増えてきました。オーナーは、当然にこの請求に応じる必要があるのでしょうか?児玉先生に解説いただきます。

Q. 貸しビル業を営む弊社は、飲食業を営むT社にビルの1階を飲食店舗用に賃貸しており、これを2020年4月に合意で契約更新しました。しかし、その後間もなくT社から、「新型コロナウイルス対策としての緊急事態宣言により客足が大幅に減少したので、外出の自粛要請が続く間は、賃料を少なくとも半額に減額して欲しい。」との要請が来ました。どう考えるべきですか。

A. 改正民法のもとではどうなるか?

賃貸借の改正民法は、2020年4月から施行されましたが、以前の賃貸借契約でもその施行日以降に更新合意していれば、適用があります。そこで、貴社のケースでも改正民法の適用があります。

改正民法の賃料減額制度は適用あるか?

賃料減額につきましては、改正民法第611条1項によると、賃借物の一部が滅失(壊れること)その他の事由により使用、収益ができなくなり、それが賃借人の帰責事由(故意、過失などの落ち度)によらない場合は、賃料は使用収益できなかった部分の割合に応じて減額されます。つまり、賃貸物件の一部が滅失以外の事由により使用収益ができなくなった場合でも、賃料はその割合に応じて当然減額されます。例えば、賃貸建物そのものは一部の破損もないが、室内備え付けのエアコンの故障とか浴室設備など水回りの故障などで賃貸物件が一部使用収益できなくなった場合には、賃料は当然に減額となります。

しかし、ご相談事例のように、緊急事態宣言により客足が大幅に減少した場合は、貴社の賃借店舗は、設備含めてどこも問題はなく使用できるのですから、一部使用収益できなくなった場合には該当しません。この点、例えば賃貸物件が放射能汚染されたという場合には、当分の間使用収益できなくなるでしょうからここに該当すると言えますが、新型コロナウイルスの場合はそうとは言えません。

改正民法の他の制度は?

また改正民法第609条によると、耕作又は牧畜を目的とする土地の賃貸借の場合、不可抗力による減収分についての賃料(地代)の減額請求をできますが、これは土地の農作物などからの減収についての定めであり、賃借店舗からの売り上げ減収の場合には適用や類推は無理です。

結局、コロナウイルスによる建物賃借からの減収の場合の賃料減額については、特約でもない限り、立法措置(最近政府でその動きがあります)がないと賃料減額請求は法的に無理と言えます。そしてこのことは、従前の民法の下でも同様です。

では貸しビルオーナーはどうすれば?

しかし、それだからと言って、テナントの賃料支払いが数か月間ストップしたとき貴社において賃料不払いで契約解除するというのは、テナントの背信行為とは言えない事情からして法的には認められません。また、貴社としては、テナントの立場を全く顧みないわけにはいかず、みすみす倒産や廃業などでテナントを失うのも避けたいところでしょう。

そこで、方法としては、特別な立法措置がなされない間は、自粛が続く当面の一定期間において賃料の免除または相当割合の減額をすること、それが銀行への返済等で難しいときは、民法には賃料の支払猶予の制度はありませんが、一定期間の賃料を支払猶予する合意書を結ぶことが考えられます。

どんな合意書になるか?

後者でいうと、たとえば、国の緊急事態宣言による自粛要請下で特別に賃料の支払猶予の措置をとること、当面の2カ月分を2カ月先の月末に支払うこととすること([注]これは一例です)、その不払いの場合は敷金を充てるとすること、万一自粛要請が長引けばその際に再協議すること、それ以外は契約書の通りとすること、といった骨子の合意書を締結しておくのが当面は最良かと思います。

ポイント

1. 新型コロナウイスの影響とはいっても、ビルオーナーは法的には減額請求に応じるべき義務はない。

2. 一定期間の支払いについて、減額または猶予をするための合意書を結ぶのが妥当。

<後記>

脱稿から既に3か月経ちました現在、既に緊急事態宣言が解除されましたが、国の掲げた「三密」防止の指針は事実上強制力があるとも考えられます。本論での賃料減額請求否定論をベースとしつつも、飲食店などでは、客席の利用制限のため、賃借物の一部使用収益不能 → 賃料減額が認められる可能性も必ずしも皆無ではない、という気がしております。貸しビルオーナー様におかれても、決して賃料減額請求否定論は「楽勝」と考えずに、よくよくテナントのお話を聞いて、しかるべく合意に至られますよう助言する次第です。

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