弊社は、都心に新築したビルのワンフロアを、A社にオフィス用途、期間5年にて賃貸しました。契約書には、賃借人A社が期間満了の前に中途解約するときは、違約金として期間満了までの残存期間の賃料を一括して支払うとの特約を付けました。ところが、契約から1年後に、A社は、テレワークで賃借フロアが過大になったとして中途解約を申入れてきました。弊社は、特約通りに残存期間の賃料の一括払いを請求できますか。
(回答)
貴社と他者との取引は、契約自由の原則によりどのように定めても原則的に有効です。ただそれには限界があり、他者に過大な額の債務を負担させるような行為は暴利行為として無効とされる恐れがあります。貴社の請求に対し、A社は、フロアを最早使用しないのに残り4年もの期間の賃料を一括請求されるような特約は暴利行為であり無効だと主張するでしょう。裁判所は、これを認めて貴社のケースの特約を暴利行為として無効とするでしょうか。
東京地裁平成8年8月22日判決は、賃借人は英会話学院を経営する会社、期間は4年、賃借人が期間満了前に中途解約する場合は、期間満了までの賃料・共益費相当額を違約金として支払う特約にて賃貸し、賃借人が賃料支払い困難のため僅か10か月で中途解約を申入れ合意解約となったケースで、違約金が高額になると賃借人に著しい不利益を与えるし、賃貸人が早期に新賃借人を確保した場合には事実上の二重払いに近い結果となるから、暴利行為で無効とされる部分もあると判示した上、賃貸人が新賃借人を確保するまでに要した期間は数か月程度で1年以上の期間を要していなかったことも挙げて、残存期間3年2ヶ月分の賃料等の全額を違約金とすることは認めず、賃借人の明渡しの翌日の時から1年分の賃料等の限度で特約を有効とし、その範囲での違約金請求を認めました。この判決は実務界では有名であり、ここから中途解約の場合の違約金の相場は、残存期間の賃料全額ではなく賃料1年分程度であろうといった見方もあるようです。
しかし、貴社の例含め会社間のケースで、違約金は賃料1年分程度に過ぎないかと言えるかは問題です。たとえば、賃借人がある程度規模のある会社で諸々の取引にも精通し、あるいは対象物件を賃借したいニーズから、違約金条項など十分理解した上で契約したような場合に、残存期間の賃料全額を違約金とする特約を有効とする判例もあります。次回に具体的な判例を紹介します。