(質問) 弊社は、2020年4月にA社に飲食店舗としてビルの1階を期間5年として賃貸しました。しかし、A社は、今般、コロナ禍での経営難を理由に賃貸借の中途解約を求めてきましたので、契約書の中途解約条項に従い、2021年3月末日をもって契約を終了させることとなりました。その際、A社から、礼金(賃料の1ヶ月分)を8割程度返還するよう求めてきました。弊社としては、礼金は返還しないものと考えていましたが、この返還要求に応じなければならないでしょうか。 |
(回答)
前回の敷金の話に引き続き、今回は、礼金のお話をします。
礼金は、賃貸借の最初に賃貸人に差し入れる金銭であり、権利金ともいわれ、営業上の利益の対価、あるいは店舗の場合その所在の場所的利益を与えてもらうことへの対価の意味を持つことが多いとされています。
一般には、礼金は、賃貸借の終了に伴い物件を退去しても返還されないもののように思われています。
これに対して、裁判例を見ますと、ケースにもよりますが、礼金の一部の返還を命じているものが少なからず見られます。
まず、賃貸借が期間満了により終了したという場合は、礼金の返還義務はないと考えられています。賃貸借の期間の満了により、その場所的利益の対価に見合う賃借は完了しているという考え方です。
しかし、賃貸借契約の中途での解約の場合は、礼金の返還義務はないかは問題となります。 まず、最高裁昭和43年6月27日判決は、期間の定めのない賃貸借契約の事例であり、2年9ヶ月で合意解約して終了したケースで、返還について特段の合意がないときは、礼金の返還義務はないと判示しています。これは期間の定めがなくいつでも賃借人からの解約が認められ、また、相当期間の経過により場所的利益の対価に見合う賃借はなされていると考えれば、説明がつきます。
他方で、契約期間の途中での解約又は解除の場合は、東京高裁昭和51年7月28日判決など多くの下級審判例は、残存期間に当たる権利金部分は按分計算して返還すべきものと判示しています。
賃貸人の立場としては、「賃貸借契約の終了の場合は、礼金は一切返還しない」と定めておくのは、期間満了の場合を念頭にする意味では良いとしても、契約期間の中途での解約の場合は、契約期間の内の残存期間に当たる礼金の部分(貴社のケースでは按分して8割程度)は、返還義務ありとされる恐れがありますので、要注意です。